http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20090813-00000001-natiogeo-int

アルコール依存症にクズエキスが有効か
ツル植物のクズ(葛)は非常に侵略性が高く、アメリカ南部では異常繁茂することで悪名高いが、最新の研究によると、アルコール依存症患者の頼みの綱となるかもしれないという。アジア原産のクズは、伝統中国医学ではアルコール依存症の処方薬として昔から利用されてきた。1800年代にアメリカにも持ち込まれたが、あっという間に繁殖し南部の固有種を追いやるようになった。

この記事を目にして、葛がアルコール依存症に効果があるかどうかということよりも、米国南部諸州において外来侵入種として厄介者扱いされていることにまず興味を持った。尤も、本記事のメインテーマは、あくまでも葛のアルコール依存症効果についてであって、厄介者の葛の環境影響評価に関する記述はない。

そして現在、10年以上にわたる研究の末、クズのエキスがアルコールに対する欲求を抑制し、アルコール消費量を削減できることがわかったという。この植物を医薬品に精製する方法として、2つの研究チームがそれぞれ独自の道を切り拓こうとしている。

2つのチームねえ。アルコール依存症は大変厄介な代物で、精神的状態とも因果関係のある疾患であるから、特効薬みたいなものはどうしたものかしらと素人ながらに思う。

第1のチームは、クズから取れる化学成分ダイジン(daidzin)をベースとして合成薬を作り出そうと試みている。ダイジンはクズが持つ効力の源と考えられている。
 研究チームのリーダー、アイバン・ダイヤモンド氏は次のように話す。「クズエキスは現在でも健康食品店で手に入るが、良い薬とは言えない。吸収率が悪く、成分濃度にもばらつきがある。医薬品と呼ぶためには、厳しい管理の下で製造しその成分も一定でなければならない。私たちはクズの潜在能力を最大限に生かした医薬品を提供できる」。ダイヤモンド氏は、クズ成分の合成薬開発を続けるアメリカのバイオ医薬品会社ギリアドサイエンシズ社(Gilead Sciences)の副社長である。

いわゆる健康食品(サプリメントのたぐい)は、成分濃度にばらつきがあって、品質管理もバラバラだ。その点、そうしたハードルをクリアした医薬品ならば十分に効果が期待できるだろうさという考え方は、いかにも製薬会社(あるいは薬学関係者)の考えらしい。

ダイヤモンド氏の研究チームは専門家の協力を得て、ダイジンから精製された合成化合物「CVT-10216」を“アルコール依存症”のラットに適用する以下のような実験を行った。
 まずラットを甘いカクテルから慣らし始めてしだいに強いアルコールを摂取させ、さまざまな試験を行いアルコールに対する依存度を測定する。
 アルコールの摂取場所は専用の特別ケージ(檻)だけに限定する。まるでバーに通うようなものだ。ラットが次第に水よりもアルコールを選ぶなどアルコールに強い関心を示すようになったら、数週間強制的に“アルコール断ち”させる。
 その後、ラットを特別ケージに戻す。ただしそこにはアルコールはない。するとアルコール依存症のラットは、ケージに入るたびに狂ったように酒を探し求めるようになる。そこがバーだったことを覚えているためだ。
 そこでCVT-10216を投与すると、アルコール依存症のラットはバーに行っても前ほど興奮しないことが判明した。「つまり、CVT-10216はアルコール消費量を抑えるだけでなく、アルコールに対する欲求そのものを抑える効力があるのだ。これは症状の“再発”を防ぐ上で大きな意味を持つ」とダイヤモンド氏は話す。
 この最新研究は「Alcoholism: Clinical and Experimental Research」誌の2009年9月号に掲載される。

10年以上かかって、この程度の実験かよ、と正直思う。ラットは大人しくなったけれども、CVT-10216が本当にアルコール欲求を抑えているのかな。そこいらあたりのメカニズムはどうなのよ。

ただ、CVT-10216が人間のアルコール依存症に適用できるようになるには、まだしばらく時間がかかる。そこでもっと迅速に市場投入できるクズ由来の処方薬に取り組んでいるのが、第2の研究チームである。
 アメリカにあるハーバード・メディカルスクールで薬理学の教授を務めるスコット・ルーカス氏の所属するこの研究チームは、「アルコントロール・ハーバル(Alkontrol-Herbal)」と名付けたクズエキスの開発を進めている。
 ルーカス氏は次のように話す。「アルコール依存症患者を前にして何十年も待てとは言えない。アルコントロール・ハーバルは、CVT-10216よりも早く患者の手に届けることができる。合成薬ではなく生薬やサプリメントの形であれば、時間のかかるアメリカ食品医薬品局FDA)の承認審査を受ける必要がないからだ」。
 ただし、承認審査を回避できるため、生薬など伝統中国医学の薬には信用できない面もある。ルーカス氏のチームは、市販されているクズ由来の調合剤をすべて集め、成分の解析を行った。その結果、いずれの薬もラベル通りの有効成分量は含有しておらず、まったく入っていないものも多かったという。

こちらはスピード感重視で、医薬ではなく、生薬あるいはサプリメントでの経口摂取を志向するチーム。従来の市販の葛由来調合剤を解析してみたところ、文字通りクズであったと(下手な駄洒落で失敬)。

「その点アルコントロール・ハーバルの場合は、厳格な品質管理とそれをバックアップする科学研究体制が整っており、有力な選択肢となるだろう」とルーカス氏は話す。
 ルーカス氏たちの研究は、「Alcoholism: Clinical and Experimental Research」誌に2005年に発表されている。その研究によると、大量に飲酒していた人がアルコントロール・ハーバルのエキスを摂取すると、1カ月後にはほどほどの量のビールで満足するようになったという。「アルコントロール・ハーバルは9カ月以内に店頭に並ぶことになっている」とルーカス氏は話す。

セールスポイントは「しっかり品質管理してる生薬でっせ」というだけのような気がしないでもない。それに、これを飲めば、ビールだけで満足します、って言われてもねえ。段々と締まらない内容に心配になってきたところで、一応、識者らしきおじさんが締めてくれる。

しかし、アメリカにあるノースカロライナ大学チャペルヒル校でアルコール依存の研究を行っているデイビッド・オーバーストリート氏は、2つの研究を受けて次のように話している。「アルコール依存症の治療に“特効薬”は存在しない。だから幅広い処置法をそろえることが重要だ。両方の研究を調査したが、どちらにも問題点がある」。
 まずアルコントロール・ハーバルは、CVT-10216と異なり、アルコールに対する欲求そのものを抑える効果が実証されていない。この点は治療におけるきわめて重要な要素だ。
 またCVT-10216は、まだラットへの試験段階であり、人間に対しても同様の効果を持つかは明らかになっていない。

ああ、よかった。まあ、どちらも本人達は真っ当な取り組みのつもりらしいから、せいぜい葛の有効伐採処理対策にも傾注して戴きたい。

それでも明るい材料はある。追試の結果、CVT-10216もアルコントロール・ハーバルも副作用がほとんどないことが判明したのだ。
「市販までにはまだ各種調査が必要だが、クズから生み出されるこの2つの新しい合成医薬品と生薬が、信頼できる試験を通過しているという事実に間違いはない」とオーバーストリート氏は話した。

最後に、

葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり (釈迢空)

お後が宜しいようで。


本日の音楽♪
「真夜中のギター」(千賀かほる