振り返ると丘の向こうに海が見えた

BADSCIENCEがこの一年を振り返っている。
http://www.badscience.net/2009/12/the-year-in-nonsense/

(仮訳)
◆この一年のナンセンスな出来事
 この一年。政府の怪しい科学にとっては、実り多い一年であった。DNAデータの保管を正当化するためのよく分からない怪しげな証拠や、海賊行為に対する費用をGDPの約10%と見積もった一部の政府アドバイザー、メディアの喝采、そして、1000%見誤るとは誰にも話すことができなかったことなどコカインに関するレポートを拝見することができた。
 テロリストの通信パターンから彼らを特定するための大規模な監視システムを使ったセキュリティサービスにもファンタジーが含まれているのが分かった。一方で、下手な鉄砲も数打ちゃ方式の掃討作戦でのふるい分けの際に用いる基礎数学が偽陽性の悲惨な数値を予測するものでもあったが。もちろん、政府の主張は「タリバンの資金源を奪う」ためにアフガニスタンで£5千万ポンドのヘロインを応酬したいといった眼目ではあったのだが。昨年のアフガニスタン商人が輸出した近隣諸国境界付近でのアヘンの価額は約£20億ポンド相当であった一方、実際の押収量相当額は£10万ポンド足らずであった。
 £6百万ポンドのホームオフィス医薬教育調査は、結果発表がなされなかった。何故ならば、その調査結果からは何も見出せないとの傷があったためで、子宮頸癌の集団検診と月の魔術が愚かなものであることを確認し、それから、政治家達はデイビッド・ナット教授から得た科学的な証拠を好まなかったために、彼らは教授を頚にした。政治家が我々に対して真剣に地球温暖化の証拠を差し出そうと望むならば、彼らは至る所のその証拠に着目していることを示す必要がある。それはイラクよりも少しばかりマシなだけの状況であって、イラク政府は爆弾を見つけるダウジング棒800本のために3200万ドルを費やしたのだった。
 パルマゲドン報道の中でタミフルの利点について当然の如く誇張される記事があったが、その中ではまた、証拠いかにしてねじ曲げられるかという姿を多く垣間見ることができた。政府資金による研究と比較した場合、方法論的な厳しさや品質の差違がみられときでも、企業拠出資金による研究は、非常に大きな、より尊敬されている学術誌に掲載される傾向があることが判明した。おそらく、広告収益が愛おしいのであろう。オーストラリアではエルゼビアが正にメルク社のために学術誌全体を装ったものを刊行した。
 法政面では、おそらく強制的な裁判登録であるにもかかわらず、世界で最も重要なジャーナルの約4分の1の裁判がまだ登録されないということを発見した。そして、ある製薬会社が反対したために(私は来年までにどの会社なのか突き止めたい)、MHRAがスタチンの副作用表示を変更するのに21ヵ月も要したことを知った。唯一のよい知らせは、業界がインドの企業が発展途上国の人々のために安価なエイズ薬のコピー商品を作ることを差し止められなかったということである。
 エイズに関するニュースでは、エイズ治療薬を拒否する立役者になったクリスティーン・マグノイアが悲劇的にも肺炎で亡くなった。そして、エイズ否定論がエルゼビア学術誌(現在は引っ込められている)や愚かな上映作品の中で推奨されていることを確認した。
 その他には、概説されたデータに沿って、運動が我々を肥らせ、コーヒーが死んだ人々に会わせ、フェイスブックが女性の癌を引き起こし、家事がそれを防ぐことを発見した。
業界基準のフロントページに、ワクチンについての誤りがあった(英国デーリーメールがそれに反対する運動をする一方で、アイルランドのデーリーメールが子宮頸がんワクチンのための運動をしていた)。昏睡状態の男性が情報交換の手助けを行わないことを示すための方法、強姦研究に関する恐ろしい歪曲、地球の磁場、その他諸々を見てきた。しかし一方で、学術的なプレスリリースの約半数が研究の欠陥の上に旗を立て損ねたものであることも分かった。
 名誉毀損に関するニュースでは、トラフィグラ・エピソードが挙げられる。ピーター・ウィルムシャーストは、彼自身が取り組む心臓学の裁判の結果を批判したかどで訴えられている。また、サイモン・シンは、英国カイロプラクティク協会に訴えられている。尤も、現時点においては、誰もが彼らの主張がどれくらい危なかしいものかについて理解しており、ガーディアン紙は、この名誉毀損事件でマシアス・ラスから我々の経費£535,000ポンドのうちの£365,000ポンドを首尾良く手に入れた。その勝訴価額は、ちょうど英国の家屋の平均単価よりわずかに少ないものに相当する。
 最後に、LBC 97.3 FM放送局の弁護士が愚かな反MMR放送番組を掲載した私を著作権法違反のかどで脅しをかけてきた。その結果、彼らがそれらの情報を消去したがっているということが、160のウェブサイト、アーリーDay Motion、新聞、ITVニュースで議論されることになった。我々のように黙らせたいと思っている人々が向こう側にも多くいるということなのだろう。正に不運の極み。それでは、2010年にまたお会いしよう。


BADASCIENCEの一年間の記事の中で、個人的には、イラクでのダウジングの詐欺話が大変に興味深かった。
何が興味深いと言って、ダウジング自体は古典的詐欺の常套手段に使われているネタではあるが、通常、英国政府に対しては結構ねちゃりねちゃりと攻め込む体質をみせる宿主が、イラク政府に対してはかなり冷淡に突き放した物腰で、その違いが面白かった。
無論、科学の正義は、科学を装う非なるものそのものへの糾弾へと向かうべきであり、その使用者をいくら責めてみたところで、それは処刑場を眺める大衆気分しか味わえないだろうとも思う。
そういう意味で、宿主のネチャリ攻撃は、納税者としての立場が多分にあって、それはそれでもっともなことでもあり、対象の標的に対して「意味なし!」とレッテルをぴしゃりと貼ることだけに意味があることなのかもしれないとも考えてみる。
いずれにしても、科学とそうでないものとの関わり合い方についての所作法については随分と考えさせられた一年ではあった。
何より、両者の関わり合い方において思考が硬直化してしまう(例えば、科学の側がそうでないものを批判するときの昨今のネット上での定型パタンといったものには心底ウンザリさせられる)ことを自らへの戒めとして心に留めておくこととしよう。


さて、科学十大ニュースなんていうのも、あちこちで発表されている。
スパコンいちゃもん騒動や月探索衛星、新型インフルエンザといった派手目なニュースはそちらの世界にお任せすることとして、わたくしが選ぶベストワンは、今年も世界中で沢山の新種生物が発見されたこと。
なかでも、美しい蛙たちに乾杯(チアーズ)!


本日の音楽♪
「家族百景」(JAGATARA