タイカ→大家→対価→耐火→滞荷→退化…

国会議事録を読んでいると、時々面白い発言にぶつかる。立法最高府の論戦も強ち見捨てたものではない。
今回取り上げるのは、参議院の環境委員会での議論である。土壌汚染防止法の審議において、招聘された参考人(所謂、識者と呼ばれる専門家)の中の御一人の発言である。
同法改正案への批判が本線ではあるが、興味があったのは、次の発言。

(略)それで、リスク管理という、これは言葉はいいんですけれども、元々この環境リスク論というのはどこから来たかといいますと、アメリカから来たものでして、これBSE問題が一番典型なんですけれども、いわゆる全頭検査なんか要らない、百万人に一人しかBSEにならないんだ、全頭検査のコストは無駄だと。要は、アメリカの場合はリスクとベネフィットを比較してベネフィットの方が大きければリスクはある程度我慢すると。みんな飛行機とか自動車は交通事故の可能性があるけれども乗るでしょう、ベネフィットがあるから乗るでしょう、環境も一緒ですという形で、こういうことを中西●子なんかは言っているんですけれども、経産省もそういうスタンスなんですけれども、これは僕は全く間違っていると思います。


「全く間違っていると思います。」
きっぱりと意気軒昂な発言を意気に感じる。
改正案に批判的なスタンスということからも明らかなとおり、体制側に属さない学者先生なのかと思って、検索をしてみたら、日本環境学会の会長も経験をされているその方面のタイカの方らしいのである。おお。
学会の会長歴任者にして、この反骨エネルギーは素晴らしいの一語に尽きる。


こういった発言をされる本線の肝の部分は、極めて乱暴に纏めれば、法の趣旨である汚染土壌対策にあっては、覆土等の対処療法や事後規制よりも、掘削といった根治療法や予防規制の強化が望ましいということのようである。どちらがどう技術的に優れているのか素人のわたくしには分からない。
尤も、リスク・ベネフィットの比較考量にきっぱりと疑念を示している根拠について、次のように解説を続けている。

 基本的には、僕はやっぱりEUが取っている予防原則、これは朝日新聞の知恵蔵に環境リスク論とEUの予防原則を比較して書いたことがあるんですけれども、やはり、今EUが進めているRoHS規制とかREACH規制という化学物質の規制は、言わばカドミウムとか水銀とか危ないものはもう製品に入れていかない、工業製品に入らなければできた廃棄物、廃製品も危ないものが入っていないということです。鉛とか先ほどのカドミウム、水銀など、基本的には六物質に対してはもうやれている。(略)
 それから、やっぱりリスク管理というのは問題ありますし、本当にリスク管理できないんですよね。土壌は確かに人が動かさなければ動かないんですけれども、地下水は勝手に動きますから、これはどこへ行くか分からないということで、何か法案にもちょっとありましたように、海辺の埋立地はいいんだと、汚染されていても。これはもう論外でして、やっぱり廃棄物処分場は山の中に造るか海に埋めているかどっちかなんですけれども、山の場合はもちろん排水は河川の上流に入ってきますし、海の場合もやはり、大阪湾のフェニックスとかありますけれども、東京湾の埋め立てていますけれども、やはり海の汚染を起こします。完全にその汚染水を海に流さないことはできません。今、遮水していますけれども、あれは堤防だけ遮水していまして底は抜けていますので、必ず汚染が海に広がります。それで魚の汚染も起こりますし、そういう意味で問題があるということです。


イカ先生の対案の骨格を示せば、《予防原則→REACH規制→ゼロリスク対策》という論旨なのだそうである。
尤もこの論旨の流れ(特に矢印の箇所の理屈)がそもそもよく分からないのではあるが、いくらお金を掛けても兎に角リスクをゼロに近づけていきますというゼロリスク対策の主張(実際はお金の制約があるので出来るだけきつい排出規制をかけていくという方法を好むと思われるが)は、リスク・ベネフィット比較考量論の反論になりこそすれ、リスクゼロを何ら保証していないようにわたくしには思える。
また、リスク・ベネフィット比較考量論と予防原則、REACHは両立こそすれ、対立する概念とは言えないのではないだろうか。
例えば、「京都のクレー射撃場の散弾鉛入り土壌を掘削して、秋田に持っていって処理しているから大丈夫」などとも言っておられるが、この場合のリスク裨害をどのように想定しているのであろうか。大変に興味深い。


予防原則の解釈の仕方といい、REACHがゼロリスクなのだと言ったり、そもそも、本当にリスクアナリシスのタイカなのか。段々と不安に思えてきて、もう少し経歴を覗き込んでみた。Drは商学で取られている。しかも、1997年…。
更に怪しい気持ちになって、日本環境学会のHPに飛ぶ。
http://www.jaes.sakura.ne.jp/
経緯から見ても、公害問題が活動の中心のように見える。
昨年の定例学会発表のプログラムを覗く。専らフィールドサーベイ。この中で、リスクアナリシスを論じた発表はあったのだろうか。もしや、セレンディピティを希求する空気は薄そうな(失礼な!)。
日本環境学会。日本環境化学学会ではない。日本学術会議の傘下らしい。
日本の環境研究の一端がここにある。


本日の音楽♪
空〜美しい我の空」(剛紫