サイモン・シンの次回作が早く読みたい

いつものBAD SCIENCE(09/07/29)より。いつにもまして、めろめろ訳ではある(情けない…)が。

(仮訳)
◆あなたが強くイマジネーションを働かせる以上に、我々には能力があるのです

本日、多くのブログや出版物を提供しているオーストラリアの雑誌「Cosmos」に、サイモン・シン氏による特集記事が若干の修正を加え再編集する形で再版されました。英国カイロプラクティク協会(BCA)は、BCA会員が乳幼児の疝痛、耳の感染症、喘息、脊柱矯正等の処方を行っていることを批判するガーディアン紙の彼の記事に関して、15ヵ月ほど前にシン氏を裁判で訴えました。
BCAは、これら処方の有効性は論文上でも十分に裏付けられているものだと主張をしています。これに対して、シン氏は、それには十分な根拠がないとして、当該療法は「偽り」であって、「幸福な気分を充たすだけのもの」だと批判していました。5月の予備審では、本訴えの意味合いを確定するために、イーディ判事は、シン氏の言い回し自体が「BCAが故意に偽っている」ことを意味するものだとの判断を下しました。シン氏は、そうした意図を必ずしも持っているものではないが、一回きりの発言を守るために、6桁にも達する訴訟費用を自らのポケットから捻出せねばならなかったことを繰り返し口にしました。
我々も即座にこれに反応しました。読者の皆さんはこの問題を言論の自由に関する問題だと捉えられるのかもしれませんが、医療や科学の分野でこうした訴訟が起きることにある種の懸念といったものが想起されるのです。
医療分野の領域は、多大な危害をもたらす可能性がある一方で、大きな利益をもたらすことも想定されます。このため、医療は批判を前提にしてこそ発展をします。その批判は、改善のために考えられるアイデア、つまり、命を救うための方法です。英国医学ジャーナル誌において最も高く評価されている論文は、最新チャートによれば、その記事の全てが医療に対して非常に批判的な内容を含むものです。学術的な会議は、屡々大量虐殺のようなものに喩えられます。批判的な評価を通じた改善方策に立脚するということは、ちっとも危険なことではありません。それは患者に対して礼を失して、たとえ患者の誰かが彼らの専門的技術的言い回しによって中傷をされたとしても、医療に関する批評全体から見れば、息苦しい環境の中で議論する危険性の方が明らかに好ましくないことに違いありません。全国医学協議会も英国医学会も、彼らメンバーにとっては何の利益にもならないことを理由に、これまでに誰も何も訴えようとしてきませんでした。私は彼らに尋ねました。それは馬鹿馬鹿しい考えではないでしょうか、と。
尤も、それが正しいことなのかどうかということ以上に、それが賢明な選択なのかどうかということの方がより興味深い問題でしょう。カイロプラクティク療法士の世界が崩壊していくというシャーデンフロイデ(他人の不幸を喜ぶ)の見解に凝り固まってしまっているというつもりはありません。まず始めに、メディアへの露出がありました。この裁判と科学に対する名誉毀損の脅威については、現時点で、タイムズ紙、デーリーメール紙、デーリーテレグラフ紙、インディペンデント紙、ネイチャー誌、エコノミスト誌、タイムズHigher Education版、サンデータイムズ紙、チャンネル4、ファイナンシャルタイムズ、ウォールストリートジャーナル、ブライベートアイ、オブザーバー、BBC並びに英国内の医療ジャーナルの社説で取り上げられています。この話題は、世界中を駈け巡りました。
これら記事の殆どが、カイロプラクティクの有効性の検証に関心を示しました。そして、その大半が魅力的な根拠を伴うものではありませんでした。いくつかは、カイロプラクティクの疑わしい起源について論じていました。それは或る磁気セラピストによって開発され、許可なしで医業を営んだが為に有罪判決を受け、そして、その人は1895年に全ての病気の95%が脊柱の位置がずれることに起因していると提唱をし、彼自身をキリスト、マホメット、マルチンルターと並び立つ人物であると突然宣言をしたのでした。その人が誰なのか皆さんは知っていますか?
BCAに対する国際的な嘆願書が、医療審議会の前長官であり前政府の科学担当顧問であったリッキー・ジェルベとスティーブン・フライを始め、教授、ジャーナリスト、有名人らによって署名されました。ステッカーとバッジをつけた公開ミーティングがありました。しかし、最も綿密な仕事をしたのは科学者ブロガーの一団だったのです。裁判が始まってから15ヵ月が経って、BCAは漸く、特定の処方を支持するために用いられてきた学術的論拠を公表しました。それは、24時間以内に、ブロガーによって綿密な分析がなされ、原著の研究報告への参照がされ、あらゆる箇所がチェックをされました。
UCLのデイビッド・コフーン教授は、小児の疝痛に関して、BCAが脆弱な証拠に依拠している一方で、その処方と矛盾する強い証拠を無視していることを指摘しました。彼は、その証拠を掲示し、説明を行いました。LayScienceは、BCAに対して選択的にコクランレビューを引用しているのではないかと警告をしました。Quackometer、APGaylard、Gimpyblog、EvidenceMatters、Dr.PetraBoynton、MinistryofTruth、Holfordwatch、JackofKentといった合法ブロガーに代表されるネット上でそれらの吟味がなされました。至る所で、彼らは、良いところ取りの結果、不公正な計画に基づく臨床試験といったEBMとは異なる原則があるという説明を行ってきました。
その後、公的な検証が行われました。その中で、疝痛を扱う処方が「誠実性」と「実証性」に関するガイドラインに準拠していないとの結論が広告基準当局から出されました。シン氏が「偽りである」と言ってBCAによって訴えられたその処方が疝痛であったことから、これは多くの人の関心を呼び起こすこととなりました。
個々のカイロプラクティク療法士の処方に関する専門技術的な不満のほとんどが5月中にフォローされました。6月には、ブロガーであるサイモン・ペリー氏が、オンラインによる1,029人の会員を含むBCAのデータベースを見つけ出しました。そのデータベースには400のウェブサイトURLが含まれていました。彼は疝痛を処方した英国内の全てのカイロプラクティク療法士(合計500人以上)を自動的に特定し、彼らの地元の取引基準事務所を特定・報告し、郵送印刷物によるフォローアップを行うための高速処理のコンピュータープログラムを書き上げました。
カイロプラクティクは総合カイロプラクティク会議(GCC)によって管理され、健康専門会議(HPC)によって監督されている専門職でもあります。そして、この会議はあらゆる不正不服を調査しなければなりません。ペリー氏は、500人以上のカイロプラクティク療法士について、彼らが十分な根拠を持たないで治療を行っているとその会議に報告しました。GCCは、その報告を拒絶し、それは個々の患者からの不満を集めただけのものに過ぎないものだと言いました。個々の患者からの大量の不満の手紙が即座に沸き上がり、GCCの郵便受けに届けられました。驚いたことに、ZenosBlogでも全く同じことが行われていました。これに掲げられた1,000件もの不服不満の声は、現在調査中です。
読者の皆さんはこれを個人的ないじめと見てとるかもしれません。私にも当初、若干の同情心が芽生えておりました。しかし、カイロプラクティクと代替療法のコミュニティからの説明を聞いて、シン氏が彼らを批判したが為に6桁にも及ぶ出費を強いられたと知って、法律の条文を越える違反行為があることを確認して、私は改心・決心をするに至ったのでした。
カイロプラクティク療法士の行為に関する根拠について、彼ら自身が不安を感じているのではないかということを示す手掛かりが、数日後に手に入りました。6月8日、McTimoneyカイロプラクティク協会(MCA)は会員に内密の電子メールを送付しました。Quackometerでその全文が閲覧可能です。「貴殿がウェブサイトを持っている場合」とこの電子メールは切り出しています。「直ちに、MCA患者情報に関するブルー・リーフレットあるいは貴殿のクリニックで処方した鞭打ち症、疝痛、他の幼児期の症状に関する患者の全情報のリーフレットを削除願います。もしも貴殿がこの助言を遵守しない場合、検察当局による介入の危険にさらされる恐れがあります。最後に、貴殿がこの件に関して他言しないことを強く申し添えます。」 そして、明白にこう言っているのです。 「特に患者さんには。」
MCAは、これが「専門職に反対する迷惑な活動」のせいであるとして、彼らのウェブサイトの内容に関しては故意による規則違反は何もないと考えていると述べています。MCAのウェブサイト全体が同日付けで閲覧できなくなり、現状維持のページ(「現在更新中です」という表示がされているのみです)だけになってしまいましたが、それ以前のサイトはカイロプラクティク療法士のウェブサイトとともに、関心を有する科学者ブロガーのコミュニティによって全てがオンライン上でアーカイブされています。
科学と医療の分野で裁判に訴えることに対する倫理的問題を越えたこの失敗からの教訓は明白です。第一に、もしも仮に皆さんの行動を支えているのが、科学的論拠というよりも、評判と表面的なもっともらしさに依拠したものならば、お金を浪費する戦いを開始するよりもむしろどうにかしてレーダーの網に引っ掛からないように身を潜めている方が賢明だといえることです。しかし、それ以上に私にとって興味深いことは、あらゆる分野のブロガーが、メディアや産業界の監査機能以上に、そして自らの規範さえよりも有意義なものであって、公益性があって、科学的かつ詳細な調査の作業を喚起してくれるということでした。こうした作業が彼らによってもたらされるということは奇妙なことには違いないのですが、何処かの誰かがそうしてくれて、そして、本当にとてもよくそうしてくれるという事実を私はとても喜ばしく思っているのです。

代替医療を弁護するつもりは毛の先ほども無いが、彼の国の一派では、<非>西洋医学に対する許容度合いは、相変わらずに、(猫の尻の穴ほどに)狭い。この争い自体お互い様な面はあるのであるが、ある種ファナティックな空気も醸していることをびんびんと感じる。こういう感覚は、わたくしの夢想するワールドとは相当様相が異なりそうだ。まあ、だから、当該webを興味深く(象の歩幅ほどの)距離を置いて読んでいるのではあるが。


それはそれとして、筆者はネット情報・ネット機能に心酔しきりであるが、それほどまでに信用しちゃってもよいのか。極端な話、合法科学者ブロガーといえどネット情報で治療を行うことについて(わたくしは当然相容れないことだと思っているが)一体主宰者はどう考えているのだろうか。それもまた興味深い。


本日の音楽♪
「閃光」(UA