行き先の分からない曲がりくねった坂道と針金、そして、合成化学科卒

BadScienceより。
http://www.badscience.net/2009/11/wtf/#more-1397
今回のテーマは、ダウジングダウジングとは、こちらを参照。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%C0%A5%A6%A5%B8%A5%F3%A5%B0

(仮訳)
◆なんじゃこりゃ?
 似非科学をテーマに掲げることは常に実に興味深いものがある。ナイジェリアでのポリオワクチンの騒動然り。あるいは、南アフリカエイズ否定論然り。そしてこの、ニューヨークタイムズ紙と手品師のジェームズ・ランディが実に壮大な規模のナンセンスを発見したイラクの爆弾捜索然り、である。
 英国の民間会社が「ATSC」と呼ぶ、銃、弾薬、爆弾、麻薬、密輸象牙、それとトリュフを感知することのできる装置を販売している。読者の皆さんが空港で見かけるあの爆弾発見装置は、数トン規模の重さがあるもので、ごく短い距離の中だけで作動することができるものだろう。当該装置ADE651は「静電的磁気イオンの力」を用いて、壁の向こうや地下、水中を通して、1km先にあるものでも、あるいは5km頭上の先にある飛行機さえからも、これらを見つけることができるのだそうだ。
 このATSC装置は、ポケットサイズで持ち運びが可能である。「イオン充電と静電的マッチングによる処理」構造に基づく本装置のプラスチックで覆われたボール紙と接続された検出棒を単に目的の対象に向けるだけで、探索が可能である。バッテリーや電源は何も必要ない。検出者の安定した脈と血圧があれば、全くリラックスした状態で放出される検出者自身の体からのエネルギーをこの装置は貯えるのだそうである。それから、体に直角の角度を保って検知棒の杖を持って歩き回る。爆弾が検出者の左側にあるならば、杖は左の方へと動き出し、それを指し示す。それはあたかも「魔法使いの占い杖」のようではないか。
 類似の装置が繰り返しテストされたが、良好な結果は何も示されなかった。先進国の警察や保安部局において、これを使用しているところはどこにもない。しかしながら、2008年にイラク政府の内務省が、これらの装置を800台も購入した。ADE651に3200万ドルものお金を支払ったのだそうである。1台丁度4万ドル。彼らは更に5300万ドルの追加発注を行った、とか。これらの装置がイラク国内の何百箇所ものチェックポイントで爆弾探索のために使われているのだそうである。
 国防総省の試験を引き受ける国立拡大技術科学安全センターのサンディア研究所のデール・マレイセンター長は、様々な類似装置を実用性に適うかどうかテストしている。火曜日には、ニューヨークタイムズ紙の依頼を受けた2名の嘱託が、当該装置を使っていたイラク警察の9カ所の国内チェックポイントを通り抜けたが、誰も彼らが持っていた(許可済の)ライフルと弾薬を見つけられなかったのである。
 イェハド・アル・ジャビリ少将は、内務省の兵器探索部局の長である。「私は、サンディア研究所や司法省その他の機関が何をしているのかについて全く興味有りません。」彼は言う。「それが神秘的であるか科学的であるかどうかはどうでもいいことで、私は爆弾を見つけることだけに関心があるのでありますから。」
 読者諸兄はどう思われるだろうか。ADE651に関する独立したテストを私は何も見つけることができなかった。最も単純な説明としては、誰もわざわざそんなことはしたくないということである。しかし、手品師ジェームズ・ランディにはそれが可能なのである。彼は自らの上着のポケットの中から100万ドルの小切手を長年取り出して見せてきた。そして、彼はこの超自然現象の種明かしのできる人間にこの小切手を与えようと申し述べてきた。昨年、彼は自ら進み出て、件の装置がよりよく働くかどうか試してみましょうとADE651の製造者を誘ってみたのだが、彼らはその誘いに乗らなかった。
 思うに、読者の皆さんが8500万ドルを身に付けていたとしたならば、手品師ランディと彼の小切手にはおそらく関心をもたないだろう。誰もが言い訳をしたがる。一方で、ジャビリ将軍は、ニューヨークタイムズ紙のリポーターにADE651を試してみることを求めた。彼のオフィス内に手榴弾と拳銃を置いてみせ、警官がそれを使うと、杖はその都度、爆薬の方角を指し示した。リポーターもその装置を使ってみたが、何も見つけることができなかった。「あなたにはより多くのトレーニングを必要としますな。」将軍は、そうのたもうたのだった。

わはは。イラクを嗤うか、どこぞの先進国の水道局を嗤うか。


一方で、日本ではこのような実に不愉快な記事。嗤うというよりも、興醒めも甚だしい。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091113/195263/?P=1

トクホ商品(「エコ●」)の一連の騒動を巡る記事であるが、消費者に分かり易く解説を行うことがジャーナリストの使命らしきものとはいえ、ここまで短絡曲折させた解説は「WTF?(なんてこったい)」と何ら違わない。
わたくしは以前、本件に関して、高グリシドール含有という商品特性に対する過去からの懸念と、(グリシドールに変換する可能性も否定できない)グリシドール酸脂肪エステルの混入という突発的事故の発生とがこんがらがって語られていることが、そもそもトクホの有用性に関する科学的根拠の薄弱さという岩盤の脆弱性と相俟って、騒動の輻輳を加速化させていることを指摘したところであった。
それに対して、本記事の解説によれば、グリシドール脂肪酸エステルグリシドールという発がん性物質にかわることが明白な、発がん物質を含む問題食品だったのだ、毎日口にする食用油であるから、したがって「食べてはいけない」という堂々たる主張である。乱暴な推論もいい加減にしてほしいところであるものの、仮にグリシドール脂肪酸エステルが発がん性のあるグリシドールの一種に全て変換するとしても、そこで問題になるのは、発がん物質か含まれているかどうかということではなく、発がん物質がどれくらいの量で含まれていて、それが実際にどれだけのリスクを生じるかということであることは、世の中がこれまでに何度も繰り返し学習をしてきた教訓として持たなければならない最低常識である。発がん物質が含まれているから問題だとしか言わない論調はこれからは赤点を付けて生徒に返却しよう。当たり前の話で馬鹿馬鹿しくなるが、航空機事故を引用して、飛行機は危ない乗り物だとしたり顔で力説する解説者の言を誰が「流石。専門家の発言は違う。」と納得するのだろうか。こんないわくな折り紙付きの記者とばかりお付き合いをするメディアの底の浅さといってしまえばそれまでだが、そういうところになにがしかのお金が流れていく仕組みのほうが「ダムはムダ」の議論よりも余程馬鹿馬鹿しくは思えてこないのだろうか。


本日の音楽♪
カナリア諸島にて」(今井美樹