電波のサイクロイドがモノアミン分泌に影響するのだという君の仮説は社会にとって迷惑千万だから撤回したまえ、と財前教授が言ったかどうか

本日取り上げたLAタイムズ紙の科学面は、携帯電話の健康影響に関してである。同社の科学記事は、わたくし自身或る程度「買っている」面があるので、こうした灰色テーマに関しても、メディア特有のあざとい煽り演出の色は極力押さえ込んでいる…その点には、敬意を表しつつも、しかしながら、表題テーマに関するリスクの軽重の価値判断が素人のわたくしとは殆ど一致を見ない。

(仮訳)
◆携帯電話の腫瘍リスクに関する研究
当初、約38,000人もの被験者を対象とした23の研究結果を評価した科学者は、因果関係を見出せなかったが、より精度を増した最近の研究結果は、もう一つの物語を紡ぎ出す。

 携帯電話によって、脳や頭、首の腫瘍リスクが増すかどうかという問に対する解答は、読者が一番知りたい情報だ。
 今週火曜日に発表された科学的分析結果によれば、23の疫学的研究データを一緒くたにした結果では、携帯電話使用と癌あるいは良性腫瘍の発達との関係性は見出せなかった。しかし、最も科学的な厳密さをもって実施された8つの研究結果を分析した結果では、携帯電話ユーザーは、ほとんど電話を使わない人々と比較して、腫瘍リスクが10%〜30%も増加していることが明らかになった。中でも、少なくとも10年以上携帯電話を使った人々で最もそのリスクが高かった。
 「他の15 の研究は、高水準のものとは言えませんでした。」共同研究者であるジョエルM.モスコウィッツ(カリフォルニア大バークレー校の公衆衛生部門大衆健康担当責任者)が言う。「それらの結果からは、因果関係も否定的な影響も肯定的な影響も見出されませんでした。これを「予測」だと私は考えません。」 
 「Clinical Oncology Jounal」で発表された主な主張は、調査結果を論破することがより難しいことから、さらなる研究が必要であることなのだと、彼は言う。
 近年、携帯電話から発生する高周波エネルギーが、時間の経過とともに、腫瘍その他の健康被害を引き起こす可能性が十分高まるのではないかという懸念が巻き起こっている。現在、それらのリスクについては、熱い討議が交わされている。
 「長いこと私は本当に半信半疑にでした。」と、モスコウィッツが言う。「全体としては相違を見出せない。しかし、研究から一歩離れて、これらのサブグループ分析をし始めて、因果関係があるとわかったのです。」
 研究の全ては症例対照研究であり、それは、研究者が携帯電話の過去の使用に関して人々と面接調査を行ったものである。対照区の個人の何人かは、脳腫瘍の病歴を持っていなかった。実験区の参加者は、脳腫瘍と診断された。研究では、そうした人々37,916人を含んでいた。
 研究者がどの人々が腫瘍になったかについて話していないこと、そして、研究が携帯電話業界からの資金提供を受けていないことを理由に、8つの研究について高水準の方法論を備えているものと判断された。しかし、8つの研究のうちの7つは、スウェーデンのたった一人の研究者であるレナート・ハーデル博士(腫瘍学者)によって実施されたものである。
 より低水準の研究のいくつかは、インターフォン・プロジェクトの一部であった。そして、それは世界保健機構の機関である国内癌研究機構との共同研究であった。インターフォンには、移動電話製造業者フォーラム及び携帯電話業界協会のためのグローバルシステムから一部資金が提供されている。
 「ハーデル博士は、実験区と対照区をブラインドした高品質の研究をしました。」と、モスコウィッツは言う。「おそらく、彼には結果を偏らせる機会は殆どないでしょう。しかし、それはより良い方法論でしょうか?あるいは、スウェーデンについての何かがあるのでしょうか?地方に住む人々が多いほど、おそらく、彼らはより高いエネルギーに曝されることとなったでしょう。」
 農村地帯で携帯電話を動かすためには、より多くの高周波エネルギーが必要である。
 インターフォン研究者は資金提供源に影響されないとマイケル・ミリガン(香港に拠点を置く「携帯電話製造業者フォーラム」の事務総長)は言う。
 「携帯電話製造業者フォーラムは、例えば欧州委員会と他の国家体といった他の公的資金提供で補われつつ、携帯電話研究の資金提供を一部受けています。」と、ミリガンが電子メールで述べた。「資金提供の際に、完全な科学的な独立性を保証すべく我々はそのようにしたのです。」
 科学的研究の多くが、頭と首の腫瘍のリスクの増加を明らかにしているわけではないと、ミリガン氏は言う。しかし、長期間にわたって携帯電話使用者と非使用者を含む多様な集団を対象にしたより精密な研究を継続的に実施しなければならないのだと、スン・クォン・ミュン博士(韓国国立がんセンターのメタ分析研究リーダー)は言う。
 「将来的には、より大きなコホート研究を携帯電話産業から独立した形で実行し、携帯電話使用と腫瘍リスクとの関係性を確かめることが求められるでしょう。」と、彼は言うのである。

所謂「系統的レビュー」というヤツは、手順として①関係文献を集める、②事前に設定した基準に従って文献データの取捨選択を行う、③採択された文献データを統合して評価し総合判断する、というプロセスになるのだろう。そうした観点から、今回の作業プロセスが系統的レビューに適ったものなのかどうかという出発点からして、わたくしには、よく分からない。結果的にごく一部の関係者だけのデータしか残らなかったものを以てして「系統的」と呼ぶのかどうか。それが第一点のはてな


第二点目は、資金提供と利益相反の関係。政治的(非科学的)バイアスを捨象する意図は理解できるが、では、例えば、トクホ食品の場合の安全性評価はどうなのか。どうも、科学的確からしさとは別の所の議論があるような気がしてならない。倫理的な側面もある話なので、それ以上追求しないが、科学レビューの枠組みの中でそういうバイアスに拘る姿勢もはてな


第三点目は、冒頭に記したリスクの重い軽い。厳密性を追求することは大切なことであるが、結局のところ、環境ホルモンのようなごくごく僅かのリスクの可能性を捉えて、「リスク有り」などと判断することには実生活上殆ど意味がないことは、過去の教訓で明らかになった。リスクを論じる際に重要なことは、リスクの有無ではなく、その軽重、要すれば、ベネフィットとの比較考量である。自動車運転は当たり前のこと、テレビも長時間見過ぎれば健康に悪いし、電気ひげそり器で脇毛を剃れば肌荒れを起こす。重たい電磁波防護チョッキを身に付けていたが為に火事場から逃げ遅れたのでは、焼死千万である。そういう常識的な尺度を持って実生活のリスクを考えるべきではあろう。


そして、最後に、いつも馬鹿馬鹿しく思うのは、リスクの最たるものとしてなのかどうか、何につけ、癌化腫瘍化の可能性を取り上げるその思考回路の画一性であろうか。電磁波にせよ、食にせよ、そのリスクは癌化だけにあるのではないことは明らかであり、何を持って癌と結び付けるのかは、当然の事ながら、疫学手法のみではなく、生分子学的細胞学的アプローチ(メカニズム解明)のテーゼが不可欠である。癌と言って他人を惹き付けたい気持ちは分からないでもないが、正直その発想がさもしくはないか。


本日の音楽♪
マック・ザ・ナイフ」(ロン・カーター