朝顔の観察日記の如く

久しぶりにBAD SCIENCE。。。
http://www.badscience.net/2009/08/health-warning-exercise-makes-you-fat/#more-1334

(仮訳)
 サンデー・テレグラフ紙が大変に刺激的なニュースを掲載しているというのに、皆さん、どうして政府の健康情報や専門家のダイエット運動実践法を聞く必要があろうか?
 『健康への警告:ダイエットトレーニングは太る原因になる!』というその記事は、紙面フルワイドの見出しが掲げられているとおり、とてもポジティブな内容で、皆さんを安心させ、一日中皆さんがのんべんダラリと過ごすことを是認する根拠になるものだ。「体脂肪を再プログラムすることが体重減少の鍵となるのだが、それはうまくいかない。」(いやいや、高飛車に出たものだ。)「そのような運動など何もしなくても、よりスリムになることは可能だろうか?」(どうかあなたも「イエス」と答えてほしい。)
 テレグラフ紙は、この調査研究を3行解説で説明する。第1に、より多くの人々が以前よりもダイエット運動(エクササイズ)に多くのお金を費やしているものの、肥満人口は英国内で増えている。(科学的にそれを説明して欲しいところ。)それから、純理論的な研究において、幹細胞を用いた動物モデルで褐色脂肪への干渉作用が明らかになったということ。(読む分には面白いが、冒頭の主張からは隔たりのある内容で、日曜日に聞くような類の話ではない。)
 当該ダイエット運動によって本当に肥るのかどうかをきちんと確かめるべく、テレグラフ紙は2つの実験結果の解説をしている。
 まず最初に話しておきたいことは、まさしく摘み食い的ではあるが、コクラン・ライブラリは医学文献に関する系統的評価が公平になされている研究者の非営利的協同文献であるということ。それによると、体重減少のためのダイエット運動に関する全43の実験結果の系統的評価がなされている。皆さんが期待するものよりは多少控え目であるが、この中では運動が有益であるというはっきりとした証拠が示されている。14の実験において、「運動」プラス「ダイエット」と「ダイエット」のみとの比較がなされている。両グループともに体重減につながるが、運動プラスのグループのほうが1.1kg余計に体重減となった。また、4つの実験において、激しい運動とそうでないものとの比較がなされ、激しい運動ほど効果が顕著であって、1.5kg余計の体重減となった。さらに、血圧、コレステロール、血糖、幸福感、その他の改善にもつながった。
 テレグラフ紙は、ルイジアナ大学のティモシー・チャーチ博士による実験を引合いに出している。それは太りすぎの人々に対して異なる3つのレベルの運動を個別指導で行わせたものの比較結果である。個別指導が行われなかった対照グループを含む全てのグループ間で、体重減少についての有意差は認められなかった。このため、同じような計画で実験をし発表された膨大かつ圧倒的大多数の文献結果を無視する形で、テレグラフ紙が引合いに出したこの唯一の実験結果から、運動は実はダイエット効果がないと結論づけられている。チャーチ博士は、また、運動をした人々ほどより摂食量が多かったのだろうとも推測している。(いやはやなんとも、素晴らしい。。。)
 そして、テレグラフ紙に記されている2つ目の実験は、リーズ大学の研究者が来月「公衆健康衛生ジャーナル」誌で発表する予定の研究で、類似の結論が導き出されている。ジョン・ブランデル教授らは、痩せることを目的とした運動管理をするよう仕向けられた人々が食物摂食量を増やし、果物と野菜の摂取量を減らしたことを明らかにした。
 この実験報告書は私の手許にもあるが、参加者の食物摂取量が増加したというのは事実でない。全参加者のわずか15%が、この調査期間中に体重増加が認められた。これらは食物摂取量が増加した人々で、筋肉部分が増えたのであって、脂肪分は減少している。実際不可解なことに、テレグラフ紙は、この実験で管理下に置かれて運動を行った参加者は全体としてより多く体重が減少したという事実については何も触れていない。12週間にわたって運動をしている人々は、平均で3.2kgほど体重が減少した。
 ブランデル教授は言う。「テレグラフ紙の記事は、我々の調査事実を完全に歪曲したものです。本調査は、運動が体重減少に非常に効果的であることを示したものですが、彼らは、我々の調査結果を全く逆向きに捉えているのです。」
 このようなジャーナリズムのミスリードというものが、公衆衛生に関する根の深い問題へとつながっていく。我々は以前に、人々がマスメディアで目にしたものに即応して自らの健康上の行動形態を変えていくという証拠を示した。このことに加え、「世界癌研究基金」がYouGovからの調査を最近依頼された。それは、新聞の無料広告によるPR調査ではなく、誰でも設問と結果の閲覧が可能である。
 その中で、全回答者の半数は、科学者と医者が発する健康的に暮らすためのアドバイスを常日頃から参考にして自らの考えを変えていると思うと答えている。しかしながら、実際には、健康的に暮らすためのアドバイス(煙草を吸わないこと、適度な運動をこなすこと、より多くの果物と野菜を食べること)というものは、少なくともこの10年の間、全く変わってないのである。そして、全回答者の約4分の1は、科学者の意見を参考に自らの考えを変え、それによって結局のところ何の変化も生じていないことから、好きなものを何でも食べた方がよいのだと答えている。もう一個ペーストリ菓子を手にして、テレビでも見てようじゃないか。

一言で言えば、運動と体重増減の因果関係についてである。
著者の嘆きも分からないでもないが、わたくしならば、メディアを批判(それも一理百理ある)する以上に、未だにこのような実験に資力を傾けている学者連にこそ批判の矛先を向けてしまうだろう。
どういう結果が出ようと、たとえ例外的に「運動→肥る」という結果が観察されようが、わざわざ人的資本を新たに投入してそういう実験を行う意味がわたくしには見出し難い。そういう実験計画を立案する段階で、「で、学術的にどういう意味あるのレス?」と棹さしそうである。「学術的な意味ではなく、芸術的な意味があるのです。」と答えてくれたりなんかするかも。
想像を拡げてみるのだが、例えば、本件に関連させて、『適度な肥満を誘引するための家畜(肉牛、豚など)の飼育方法』といった研究論文をそういった方面の研究者が出したとしよう。学術的にどういう意味があるのかわたくしには分からないが、一般化できるような、あるいは、慣行方法以上に画期的成果がもたらされるものであれば、有用技術として、実用的な意味はあるのだろう。
しかしながら、実用的な意味さえ見出せないような研究実験であった場合、それはまさしく夏休みの宿題で毎年ののちゃんが苦吟をしつつテキトーにこさえている『朝顔の観察日記』と何ら変わらない代物と思われる。
大学の研究者が『朝顔の観察日記』を提出して、ピアレビューしてくれる学会世界があるとは到底思えない。
そして、我が国の場合、そういったレベルの研究しかしていない関係者は、大きなスポンサーやファンドを抱えることは出来まいが、評価制度があるとは言え、降格評価はおよそあり得ないし、経常経費を全カットされることもありえないので、安穏としたキャンパスライフは保証されているのだろう。(いやはやなんとも、素晴らしい。。。)


本日の音楽♪
「ビヨンド・ザ・シー」(小林桂