『目の前の1羽のカモの幸福を考えるより、その1羽のカモを含む生態系の幸せを願う』ということは一体どういうことなのだろうかと考えてみる

個人的嗜好から、大都会に棲息する身近な野生生物の話題を何回か取り上げているついでに、このNational Geographic誌の記事もやはりピックアップをしておこうか。
http://www.nationalgeographic.co.jp/animals/special_article.php?special_topic_id=1&episode_no=5
この中で、東京都心部に棲息する野生生物の意外な豊富さについて記述をしている。

また、東京の都心部は、一般に考えられているよりもずっと野生生物の種類と個体数の多い場所です。私の20年以上にわたる自然の観察や調査の結果から考えて、たとえば哺乳類だけでも、アズマモグラ、アブラコウモリ、ノウサギ、カイウサギ、タイワンリス、マスクラット、カヤネズミ、ドブネズミ、クマネズミ、アライグマ、タヌキ、イタチ、ハクビシンなど10種類以上いますし、鳥類はその生息が豊かな自然環境が残されている証拠とされることも多いオオタカ、「水辺の宝石」と呼ばれることもあり人気の高いカワセミなどをはじめ、毎年のように100種類以上は確認されています。昆虫類などについては、正確な種類数を把握することなどほぼ不可能でしょう。おのおのの種の個体数もとても多い場合がたくさんあり、たとえばタヌキについては、特定非営利活動法人・●市動物研究会の行った2006年6月から2008年5月までの3年間に及ぶ調査結果から推測すると、東京23区内だけで少なくとも約1000匹いると言われています。

成る程。ウサギもねえ。タヌキは、23区内に、なから千匹か。よくぞ調べ上げたと言うべきか。国会議員の定数(約720人)以上に棲息して居るっていうことだから、同心円をもう少し拡げて考えてみればさらに珍しくも何ともないということなのだろうな。

『アド・バード』のように23区が檻やドームで閉鎖されているわけではないので、しがらみを持たないタヌキはどこに住もうが、奥多摩に隠遁をしようが南房総へと避寒に向かおうがお伊勢参りへと出奔しようが、彼らの勝手である。
けれども、好きこのんで千匹のタヌキが区内に棲息をしている。棲息しているのにはそれなりの理由(各自察しをつけるべし)があるということである。他の野生生物然り。その是非については、ひとまず横に置いておく。


さて、このレポートを書かれた専門家の方(『プロ・ナチュラリスト』という肩書き名称が世の中でどのように受け入れられているのか、わたくしは不知)の文章の中で、自然界での『種間交雑』の問題が取り上げられている。
特に都心では野生カモの種間交雑が増えているのではないかという問題提起。その原因として、以下のようなコメントを記している。

基本的に自然界においては、「種」は交雑することはない(あってはならない)ことです。にもかかわらずこのような状況になる理由として、「カモ ハンドブック」(●内拓哉著、文一総合出版、2000年)によれば「繁殖地が近いため、両種が非常に近い間柄であるため」などがあげられています。しかし、私には、もうひとつ重大な理由があるように思えてなりません。それは、日本における人間からの過剰な餌づけです。冬鳥のカモ類の多くは、日本に越冬のためと同時につがい形成のためにやって来ます。つまり、公園の池や流れの緩やかな大きな川の水面や岸辺は、カモたちの「集団お見合い会場」とも言えるのです。本来は、種類ごとにかたまって冬を越しているはずなのですが、人間による過剰な餌やりがくり返されることにより、さまざまな種類のカモが狭い範囲に集中してしまい、その結果、種間交雑のチャンスが増えるというわけです。

ふうむ。種間交雑というのは、『あってはならぬ』御法度であったのか。確かに、高等動物での雑種の多くは不妊化を伴うことから、当該種の存続・継承にとっては、明らかにプラスに働かないことも考えられますわ。
けれども、それも詰まるところ、程度の問題になるんじゃないのかしら、とわたくしは首を捻る。

種間交雑の頻度が高まり、種全体の存続・継承に何らかの致命的影響を及ぼす可能性が生じてきた時、それは明確な赤信号(往々にして手遅れに近い)のシグナルとして認識することにはわたくしも吝かでない。
種の存続・継承という観点から考えれば、都心というこの人為的人工的環境下で生活を営む野生生物にとって、例えば、交通事故禍、野犬や野良猫による災難、急激な餌の減少や変動、水質の急激な変化、難消化物による摂食障害、釣り針が嘴に引っ掛かって口が開かないといった様々な外部諸要因についても、種間交雑と同様の「ハザード」と見て取ることができよう。

そこで、その各々のハザードについてのリスクの大きさというものを冷静に考えたい。
ここが本日のポイントである。
他のハザードよりも本当にリスクは大きいのかどうか。例えば、種間交雑の起こり得る確率頻度、種間交雑が種の絶滅に及ぼすインパクトの大きさといったことについての分析解説がここでは欠かせない。

たまさか、スーパーなナチュラリストである筆者は、「環境の変化は鐚一文まけるわけにはいかないのだ」といった原理主義の発想や主張を持っていないものと祈念したいが、種間交雑発見→すわ問題と言っているだけでは、外来種との交雑による大型クワガタムシの出現の話と同様に、誰にとって何がどうして一体問題であるのかよく分からないわ、ということである。

また、過剰な餌付けといった歪んだ環境の形成こそが種間交雑を増やしているのではないかという仮説も提唱している。わたくしには、その仮説の因果関係というものはよく分かっていないものの、どのような仮説を打ち立てることも自由であるからにして、傍証・挙証はしっかりとした報告を期待したい。

尤も、筆者なりのプライオリティ付けを持って、野生生物あるいは交雑問題というものを捉えているのだろうなとも薄々想像はしている。従って是非とも、その優先順位というものも知りたいところではある。
さすれば、冒頭の『カモを含めた生態系の幸せ』なるものと、ワケあって野生生物が棲息するこの都会環境というものとの関わりに関しても、少しはわたくし自身にとっての理解が進むかもしれない。(…かといって、カモのいる自然環境はたいへんに尊いのですといった価値観は、老い先の残された時間の方がわたくしにとっては貴重なことであるので、聞くだけ無駄。)


追記
猿の惑星」ならぬ猿の王国が三●摩方面に形成されたりして。


本日の音楽♪
「Tell me why」(遊佐未森