ぶたぶたこぶた

◆可愛いコブタたちが研究室から逃げ出した
ロスアンゼルス・タイムズ紙:2009.6.6)

農学系の研究者達は、ヒトの健康目的の研究用として用いられる家畜が余りに過小評価されている資源であると主張する。そして、彼らはさらに多くの政府研究資金を望む。

白くて可愛い研究室マウスには気を付けること。庭で飼うような身近な(barnyard)家畜の実験動物はあなたの仕事にとっての武器になる。

農学系研究者のと或る集団は、ヒトの健康増進を目的として利用される家畜が研究資源として非常に過小評価をされていると主張する。そして、政府が生命医学研究に投資した何億ドルもの一部分をこれら家畜が担うべきだとも主張する。

彼らは言う。ブタが持っている人間と同じ大きさの心臓と血管は、心血管疾患の研究用として最適のものである。ウシの胚には、観察が容易なシャーレの中で本体の構造を再生し始めるという変わった能力がある。ニワトリは、人間以外で卵巣癌を患う唯一の動物である。

「家畜は、遺伝的生理学的に見て、人間とより近縁の関係にあるといえます。」イーストランシングにあるミシガン州立大学で動物科学と生理学を教えるジム・アイルランド教授が言う。彼の調査に拠れば、少なくとも17人のノーベル賞受賞者が彼らの実験の中で庭で飼うような身近な(barnyard)実験動物を使ってきた。

しかしながら、彼はこうも嘆く。「大部分の研究費用がマウスを使うことに投資されてきたのです。」

マウスには、もちろん、研究用ツールとして多くの利点がある。一匹のブタやウシを研究するのと同じコストで何百匹のマウスを用いた研究が可能で、精細な調査ができる。世界中の研究室がマウスを用い、そして、あらゆる産業において、研究に必要な果てしない遺伝品種と全生物を供給するためのツールとして用いられてきた。

UCLAにおいては、マウスは生きている動物を含んだ1,200の研究プロジェクトのうちのおよそ1,000のプロジェクトの中で専ら用いられ、残りのほとんどではラットが用いられていると、放射線生物学者であるウィリアム・マクブライド同大学動物研究委員会議長は言う。齧歯動物は、非常に実用実践的であるということである。

「我々は、緑地を持っていませんから。」と、マクブライドは言う。

しかし、家畜は他の方法において利便性があると農学系研究者は言う。

彼らは、血液検査や他の医学検査のために、通常の庭で飼うような身近な(barnyard)家畜の飼育を定期的に中断して、数ヶ月または数年間研究用に充てることができる。そのうちの何匹かの家畜は、国立衛生研究所(NIH)が定めるガイドラインの基準を満たす最新鋭の施設で飼われている。研究が終われば、ほとんどは自分たちの群に戻されるだけのことである。

おそらくほとんどの家畜は、最終的には屠殺場に向かう運命にある。そして、その処理で得た現金は研究費用の足しにされる。妊娠中の羊の胎児の栄養状態を調査する目的で家畜を利用しているファーゴにあるノースダコタ州立大学の動物生理学者ラリー・レイノルズは、このように言う。

実験中に何らかの薬物を投与された動物は、安全理由のためにフード・チェーン(食物連鎖)の中に入れられことはなく、遺伝子活性といったデータを集めるために処理をされなければならない。そうしたケースでは、当該動物は連邦政府が定めたガイドラインに従って屠殺され、死体は焼却されると、レイノルズは言う。

多くの大学では農業研究のために家畜を飼育してきており、そして、いくつかの研究ではヒトの健康目的での利用を無視することがほとんど不可能なほどに研究は進展を極めてきた。一つの顕著な事例としては、人間においても通常使用されている人工授精と体外受精技術は、ウシの飼育者による群の品質改善を助けるために、農学系研究者によって最初に開発されたものである。

生物学者ラスハヴィーの関心は、酪農生産におけるウシとヒツジの乳腺発達についての研究である。彼の博士号は、人間の乳癌の進行に関与する遺伝子とホルモン類の研究であった。

彼は、自らの生命医学的な証明を強化するために国立癌センターでの勤務の後、農場に戻る。UCデイビス校の動物科学部の中で、彼は胸の発達変更を誘発するホルモン類と遺伝子を見つけるために、ブタを使って何が人間の乳癌の原因になるかを探り出している。

「人間がマウスとは違うということを私達は知っています。」と、彼は言う。「そして、私達は、どのような他の生物種がより人間らしいかということを真剣に考えなければならないのです。」

シカゴのラッシュ大学医療センターで、生殖免疫学を研究しているアニメッシュ・バルーアは白色レグホンのめんどりを使っている。

メンドリの半分は2,3才になると時として卵巣癌が発達する。イリノイ大学の2つのキャンパスの協力で孵化した瞬間からの追跡をすることによって、バルーアはそれらを見出そうとしている。

バルーアは、メンドリが卵巣癌の最も初期のステージにある時期の血液を循環させる働きのあるタンパク質に焦点を定めた。チームは、当該タンパク質について、前立腺癌ができる際の前立腺特異抗原検査に類似した早期発見診断検査法を使用できるかどうか確認するために、より多くのメンドリを使った研究を進めている。

バルーアは、また、致命的な腫瘍が出来る前段階の血管の成長を正確に診断する超音波検査を確立するためにもメンドリを使っている。「卵巣癌の初期の徴候を見つけることは重要なことです。これは、皆さんが見つけることができない非常に難しい悪性腫瘍のうちの一つです。」手遅れにならないためにもと、彼は言う。

もちろん、既存の家畜研究に基づくピギーバック(ただ乗り)方式での生命医学研究の更なるメリットというものもあるわけであり、それはNIHの数十億ドルの研究予算を獲得できる機会でもある。

そうしたお金は、最近の報告に拠れば、過去20年にわたって連邦政府及び州政府の研究予算の44%の削減を受けてきた農学系研究者にとっては相当深刻な問題なのである。広大な土地を保有していた大学での動物科学部局においては、その大きさは30年前の半分程度になり、全ての種類の家畜がキャンパス内から居なくなってしまったと、その報告では明らかにしている。

「現実問題として、我々に必要なのはお金です。」ノースダコタ州立大学のレイノルズが言う。

米国農務省は、2007年度に3200万ドルを家畜研究を行っている大学研究者に割り当てた。それは、NIHが生命医学研究のために外部の科学者が利用できるおよそ240億ドルに較べて極めて小さな額であるように見える。

しかしながら、より大きな動物を含む研究に資金を供給する提案は、往々にして懐疑的な返答しか返ってこない。レイノルズは言う。「NIHの資金に関する評価委員会の関係者のほとんどは、齧歯動物を扱っている人々です。齧歯動物への偏重というものがおそらくあるのだと私は思います。」

UCデイビス校の獣医療学部長のケント・ロイドは言う。マウスはわずか3週間で繁殖するが、これに対してヒツジは21週間、ウシは38週間もかかる。そして、マウスでは、特異的疾患にかかりやすい何千もの独特の系を容易に作り出すことができる。彼らのDNA配列を決定したことによって、遺伝子をより迅速に再編成することができ、そして、ES細胞と他のバイオテクノロジーツールを正確に使用することができるのだと。

時間とお金があれば、それらの資源のいくらかによって、他の生物種の複製がおそらく可能になるであろう。「しかし、何故そんなことまでしなければならないのか?」と、彼は言う。


真面目な記事。海外のメディアは真面目だ。何故か。きちんと取材をして書いている。取材先を間違えていない(判で押したような詰まらぬ相手を選んでいない)。しっかり勉強している。対照群の身近な存在については、敢えて述べまい。以上。


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「最愛」(福山雅治