若者の想像力、そしてそのリアリティ

米国科学アカデミーと技術アカデミーが、技術開発や技術革新をテーマにして、毎年実施している「全米学生エッセイ・コンテスト」。
2009年の御題は「想像してごらん(Imagine That!)」。
高学年の部の第一席は、テキサス州在住の女子高校生Qingliu・ヤン嬢(12年生)。表題は『有機太陽電池有機発光ダイオードを用いた新エネルギーと照明』
http://www.engineergirl.org/?id=10691

(仮訳)
「3.5ボルトに挑戦しよう」

私の向かいに座っている物理学者は、息をのみました。有機発光ダイオード(OLED)内の電子がトンネルの中で再結合をして、光子を放出するその時、かすかな電子の輝き、明瞭で自然光のような輝きが明滅をし始めます。

それは、非常に単純なデバイスでした。研究室内でプロトタイプの試験をした後、すぐに私は、《Hourglass(砂時計)》と呼ばれる都市でそれを実行に移すべく計画を持ち込みました。《Hourglass》の周囲を囲む灰色のパネルによって支えられたOLEDは、日中は太陽光を取り込むために展開をしています。夜間にはそれが《Hourglass》を護るように包み込まれているのです。全ての機器が近隣の都市向けのエネルギーをも生み出す計画です。センターを取り囲むリングは、有機太陽電池有機太陽光発電(OPVs)のシートです。それらはエネルギーを集め、励起電子の分離によって、電気に変換をしていきます。

「そのデバイスを設置・使用しているときに、故障や破損がないようにするためにどのような工夫を凝らしているのですか?」と物理学者は尋ねます。

典型的な有機太陽光発電は、結局のところ、インジウム層状酸化物(ITO)の陽極層を持っており、それはデバイスを脆く壊れやすいものにしてしまう傾向があります。

カーボンナノチューブです。」私が感慨を込めて答えました。「それは、多層構造のカーボンナノチューブ(MWNTs)なのです。」

脆いITOに代えて、有機太陽電池はMWNTsを電池内に取り込むことによって、柔軟で耐久性を備えることが可能になりました。

「分子レベルで見れば、カーボンナノチューブは鉄鋼やダイヤモンドよりもずっと強靱です。それは、互いに結合し合った炭素の格子であって、炭素ガスと鉄系触媒から作られます。それらは結合によって『森』のように大きくなって、ワイヤージャッキの上で引き延ばされます。もちろん、そのためには非常に入念な詳細設計と慎重な技術力を必要としますが。」

物理学者は、興味深そうな様子です。これまでに私は、各家庭と各会社に太陽から生成されたエネルギーを提供すべく、12の《Hourglass》群の都市でこのデバイスの建設を提案してきました。私は、有機太陽電池がシリコン無機電池や薄膜デバイスによる太陽光発電よりも高いエネルギー転換効率に達したとは明言をしてきませんでした。

「85%の転換効率?」私が頷いて、その設計図を差し示したことに対して、彼は信じらないと叫びました。

有機太陽電池は、以前はそんな高い水準には到底及ばなかった筈でしょう。どのようなアイデアで、そんな途方もない高い転換効率のOPVを作ることができるのですか?」

私は微笑んで、説明し始めました。本当に単純なプロセスなのです。つまり、カーボンナノチューブがこれに関係しているわけです。カーボンナノチューブ有機層に展開する3Dマトリックス構造を有していることから、デバイスを通してより多くの透過経路を考慮に入れることが可能となるのです。これを言い換えれば、デバイスを透過するための経路が多ければ多いほど、太陽電池はより効率係数が上昇するということです。流量可動域が拡大すれば、集められた光子も同様に増加するというわけです。

物理学者は尋ねました。「デバイスを通過する流量が増えすぎた場合は大丈夫なのですか?それは有機ポリマーですよね。PBCMも有機ポリマーの一種です。流量増加で燃えてしまわないんですか?」

私の答?「D-ソルビトール。そうです。チューインガムに含まれているあの人工甘味料。これは簡単に結晶化ができ、燃焼を防ぐために、有機分子の周囲に防護壁を作るのです。若干の効率性を犠牲にすれば、うまくいけば、カーボンナノチューブの効果はPEDOTとして合体することができ、PSSの穴のブロッキング層がバランスを補ってくれるのです。最終的には、非常に高効率で耐久性のあるデバイスに仕上がります。都市の電源としてこれ以上のものを他に求められるでしょうか?」

彼はくすくす笑い出しました。「おそらく、それは機能するでしょうね。しかし、その内部の灰色のパネルと一緒にして、あなたは何を提案しようとしているんですか。これらが…あなたの力説されてきた有機発光ダイオードやOLEDなんですか?」

私は、保護壁に沿って並べ立て掛けてある明るいパネルの方に顔を向けました。

「これらは、美的景観と、そして、夜間に《Hourglass》を修理する技術者の誘導にもなる二つの目的機能を兼ね備えた費用効果の高い光なのです。また、電圧の単純な操作で電源のオン/オフが可能です。」

「どれくらい正確に製造できますか?」設計図を引き寄せながら彼は尋ねました。

「そうですね。」私は切り出しました。「本質的には、それは有機太陽電池と非常に類似したものです。裏返しのものといってもよいでしょう。有機太陽電池が光を吸収して、電気を興す一方で、OLEDは発光のために電気を消費します。それらは同じ構造にあります。そして、唯一の違いが有機層なのです。太陽電池がPBCMを有しているのに対して、OLEDはPFOからα-NPDやAlq3まで様々な分子ポリマーを持っています。」

私は計画の設計図を差し示しながら、続けて言いました。「これらはプラスチックサブストレート板の上で作ることができます。そして、曲げたりすることができ、曲がった壁の形にフィットさせる能力を備えています。わかりますか?これらは《Hourglass》を訪れる観光客にとっても美的な感動を与えることができるものなのです。そして、さらに修理工にとっても実践的な素材であるわけです。」

技術者は、科学、美的感覚、実用性といったすべての面からデザインを考慮しなければなりません。その青写真が実行される前段階として、私は、プラスチックサブストレート板やカーボンナノチューブ(生物圏に豊富に存在する炭素)、単純で丈夫な有機ポリマー、アルミニウム陰極といったより費用効果が高い材料物質を選択し、《Hourglass》の予算を審議する市議会をも納得させなければなりません。金の陰極は陽極からの仕事関数がより高くなるという性質がある一方で、より明るいデバイスになります。私は、OLEDだけで《Hourglass》の道路を照らすために必要な2000カンデラという基準を満たせるものと考えています。

物理学者は微笑みました。「ヤン嬢、あなたの計画上の問題点というものを教えていただけませんか?何やら少なからず、こじつけのようにも聞こえるものですから。」

女性技術者として、私にはこの計画を達成するための信念というものが必要不可欠なものなのです。私には科学に対する情熱があり、私がこの結合太陽電池(OLEDマトリックス)の成功を強く信じていなければ、市議会は凡そ納得してくれないでしょう。私は、傍にある、計画ではより大規模なOLEDのミニチュアプロトタイプの方に向き直りました。

「いいえ。不可能な問題はありません。」技術者として何かあれば、それを解決する道を探し出すのが私の仕事なのですから。

現実の基礎的専門的素養、想像力、そして信念といった要素に加えて、コミュニケーション力という要素もこのストーリーの中で展開をしている。いやはや、畏るべし。


本日の音楽♪
ラ・バンバ」(ロス・ロボス