有意義な時間の使い方

例えば、昭和四十年代のベストセラー本である「頭の体操」(多湖輝:かつては光文社のカッパノベルズであったように思うが、現在は知恵の森文庫から発刊されているらしい)のようなリズム感ととっつきの良さというのもパズル本として売れる条件なのではあろうが、まるでなぞなぞ本のような「問題の羅列」だけのものには、わたくしは正直食指が動かない。
答を求めるだけならば、ニコリのペンシルパズル本を解いていればよい。体力の有り余る時分であったならば、暇つぶしに読んでいたかもしれないが、資源に制約のある現時点においては、わたくしのおつむの中のエンジンというものをもっと有効に活用したいと切望したりしているのである。


そこで、わたくしとしては、パズル本としては、松田道雄やガードナーのようなウィットとトリックに満ちた書物が好きなのであるが、先般、古本屋で藤村幸三郎の書籍を二冊見つけた。
凡そ二十六年前、昭和五十八年頃に発行された「推理パズル」と「直感パズル」。ともに河出書房新社刊。百五円というのは嬉しいような悲しいようなではあるが。


薄っぺらな本ではあるが、中身は濃い。
そして、昨今のなぞなぞ本とは大いにその雰囲気からして違っており、端正で古風な味を堪能できる。
たかがパズルという人もある中で、作者がどれほどの気概と愛着を持ち合わせているかということが実感できて、かつ、共感できて、読んでいて心地よい。
また、何よりも文章が巧みであるということ。折り目正しい文語体は、真によろしからずや。
作者は昭和以前の人であるから、「むべなる哉」なのではあるが、この底本が昭和三十年頃のベストセラーであったという話を聞くと、当時の大衆庶民の教養の奥深さというものが忍ばれる(昭和四十年代のベストセラー本との違いに思いを致すと、興味深い)。


わたくしの好きな問題に秤の問題がある。有名な問題として、『九枚のコインのうち一枚だけ重さが軽いものがある。二回だけ天びんばかりを使ってその一枚を特定せよ。』というものがあるが、それの応用問題として取り上げられている。要約すれば、以下のような問題設定となる。

パチンコ玉が六個ある。このうち、一個だけ重さが他の五個と違っている。(重いか、軽いかは分からない。)
ばね秤(天秤ではない!)を三回だけ使って、その一個と玉の重さを求めよ。

これは純粋数学の問題でもある。難解であるが、示される答えは非常にエレガンス。優雅な論理を堪能できる。受験問題としても優れているのではなかろうか。

※回答は諸兄の手に


本日の音楽♪
「少年は天使を殺す」(ラ・ムー)