オバマ大統領科学を語る(下)

表題の最終回。最後は、主に科学と教育について語っている。教育水準の低下に対するオバマの危機感には相当なものがあって、科学者は科学と教育の両方に軸足を置かなければならない義務があるという主張を彼はしている。こちらの国の象牙の塔の住人にとっては、相当に耳の痛い話ではある。

就任100日の所謂「蜜月」も終わり、愈々政権外との厳しいコミュニケーションに晒されるオバマ陣営ではあるが、この演説内容を見る限りは、科学界から好意的なサポートが期待できそうではある。
所要40分の講演。改めての全体を通じた感想としては、「演説、巧すぎ」。

第5に、次世代の子供達への教育如何が将来の進歩と繁栄を決めるものであることは明らかなことから、本日、私は数学及び科学(理科)教育への関与を改めることを発表します。(拍手)このことについて、私は注意深く考えてきました。この関与を通じて、アメリカの学生は世界の中位グループから、次の10年では数学・理科で集団のトップへと向かうこととなるでしょう。今日、教育機会を持たない国というものは、将来において競争の外に追いやられることを私たちはよく承知しています。

すぐに十分なスタートがきれるわけではありません。私たちは、数学と理科の科目を受け持つ教師の質が学生の成功や失敗を決定付ける最大の影響力を持つ一要因であるということを知っています。しかし、依然として高校では、数学では20%以上、化学と物理学では60%以上の学生が専門知識を持たない教師によって教えられているのです。そしてこの問題は、さらに悪化が見込まれています。2015年までには全国で28万人以上の数学と理科の教師数の不足が見込まれているのです。

そういうわけで、私は本日、州の強い関与と数学・理科教育の前進のために、教育長官の下に50億ドルの競争的資金の追加基金を行い、この秋から開始することを発表しています。

また、私は州に対して、基準の引き上げやサイエンスラボの刷新、カリキュラムのグレードアップ、並びに教室内での科学技術の利用改善のためのパートナーシップ作りを通じて、数学理科教育の劇的改善を要求しています。(拍手)また同様に、予備教師の準備と訓練強化、学生を惹き付ける魅力或る数学理科教師の質の向上によって、私たちの学校が甦るよう州に対して要求をしています。

こうした努力の中で、私たちは発明のアプローチを支援します。効果的な教師を雇って、報い得る新たなシステムを作成しましょう。そして、経験豊かなプロの教師を教室にいざなう道を作り出しましょう。正に今、化学を教授することができる化学者、物理学を教授することができる物理学者、数学を教授することができる統計学者がここにおられるわけであります。こうした専門知識と皆様のような人々の熱意を教室に運び込むシステムを作り上げていく必要があります。

例えば、州によっては革新的な仕事が現在行われています。ペンシルバニア州のEdrendell知事は、「科学技術エンジニアリング数学(STEM)」教育を最優先事項とする州の数を増やすために、全国知事会と共に日々努力を払っています。現在、ペンシルバニアを含む6つの州がこのイニシアティブに参加をしており、それは21世紀の雇用を創出するため、スキルを備えた熟練要員を確保する効果的な計画であります。私は、全ての州50州にこれに参加をして戴きたいと考えています。

しかしながら、周知のとおり、私たちの仕事は高校の卒業証書だけでは完了しません。何十年もの間、私たちは教育的な水準で世界をリードし、結果として、経済成長においても世界を先導する役割を果たしてきました。例えば、G.I.Bill(※復員軍人援護法)は、大学に人材を送りこむのを助けます。しかし、この新しい経済状況下において、卒業率、教育的な達成度、科学技術者の生産といった諸局面において、私たちの国は他国に遅れをとってきました。

したがって、私の政権では、高い賃金と高い技術を備えた将来の仕事に向かって、次世代の科学者と技術者を育成するために、私たちの能力を大いに競争・強化する目標を設定しました。次の10年の間に、つまり2020年までに、アメリカに世界中から相当数の優秀な学生を集めます。それが私たちが定めた目標です。そして、大学教育を誰もが受けられるようにするために、税額控除と補助金の提供を決めています。

また、私の予算では、NSF卒業生研究奨励金を3倍に増額します。(拍手)このプログラムは、50年前、宇宙開発競争の一部として創設されました。その後数十年の間、正に今これらの奨学金を求める学生が旅立つときとほとんど同じ規模のものでした。科学のキャリアパスを望み、行く手を拒む障害に遮られているこうした若者たちを支えていくべきであります。

このため、こうした取り組みこそがこの新世紀において新たな発見を行う世界を先導していく方法なのです。しかし、皆様方にあられては、それが政府の仕事だけで達成できるものではないものであると思っていらっしゃることでしょう。私たちは皆、一蓮托生であります。本日、私は皆様に対して、新世代がわたくしたちと同じセンスオブワンダーや知的興奮を誘発せんがために、科学に対し皆様の持っておられる愛情や知識をここに分け与えていただきたいと考えております。

アメリカの若者は、自ら以上の大きな運動に参加するように求められる機会を与えられたならば、難題に立ち向かうでしょう。その証拠はあります。ご承知の通り、アポロ17号計画におけるNASAの管制センタースタッフの平均年齢は、弱冠26才でした。私は、若者こそがこうした壮大な挑戦に取り組む用意と資格があるということを知っています。

したがって、私は皆様方が教室の中で時間を過ごすよう説得をしたいのです。そして、その仕事がどういった意味を持つのかを若者に話し、語らい、そうした行為が皆様にとってどういった意味を持つのかを共に考えて戴きたいのです。私は、学生が科学分野の単位取得と教員免許を同時に獲得する計画に参加することを皆様にも奨励します。科学フェスティバル、ロボコン競争、ものづくりフェアといった若者参画型のイベントであるかどうかや、メーカー、消費者の立場に関係なく、私は、皆様に科学技術において若者の関心を惹く新しい創造的な方法について考えていって戴きたいのです。

私は、本日お越しの皆様に、私が皆様と同じ目線で働いているつもりであるということを知って欲しいのです。私は、私たちの将来を決めるであろう学生達が自らの科学数学技術のキャリアを考慮に入れるべく奨励するアウトリーチ活動に参加するつもりでいます。

特にクリーンエネルギーにおいては、エネルギー省とNSFが何万人ものアメリカの学生に同種の研究業務を続けるよう奮起させるために、共同のイニシアティブを開始しています。

それは私たちが行うエネルギー変革への挑戦を手助けする若者の想像力を獲得するための教育的な運動を支持し、科学技術分野で往々にして過少に評価される女性やマイノリティの教育機会を増やし、経済の拡大によって地球を維持するために役立つ解決方策を見出すことになりましょう。(拍手)

そして、このことは、この挑戦に応ずるアメリカ人の世代を準備することにつながる、奨学金と学際的な卒業プログラム、学術機関と革新的企業間の協力関係を支持するものであります。

アメリカの何処かには、産業構造を変革するような起業化を企図してビジネスを始めようとしている企業家がいることを常に念頭に置いておかなければなりません。しかし、それは未だに何も保証されていませんでした。新しいガン治療の開発に繋がる可能性のある実験についてのアイデアを持った科学者がいたとして、彼には資金提供源を見つける術がありません。それはまるで、子供が好奇心を一杯にして夜空をじっと見つめている光景そのものです。その子には世界を変える可能性があるに違いありません。しかし、本人はそれを知りません。

御存知の通り、科学的な発見は、輝きのきらめき以上の重要なものを獲得することができます。通常、それには時間と激務と忍耐を必要とします。そして、訓練、さらには、国の支援を必要とします。しかし、それは人間の努力における他のいかなる領域のような約束をも持ち得ません。

1968年、「喪失と対立と激動」と定義されるこの年に、アポロ8号は地球の重力を脱出して、人類を宇宙空間に初めて運び込み、そして、船は月を10周回しました。その4周目の軌道で宇宙船はその向きを変え、そして初めて、地球をその窓越しに直に見ることができました。

アポロ8号の宇宙飛行士のうちの1人であるBill Andersはカメラをわし掴みにし、月の地平線の彼方から昇ってくる地球の姿の写真を撮りました。それはこれまでに最も遠い場所から撮影された地球の写真でした。まもなくそれは「地球の出」として知れ渡ることとなりました。

Andersは、その世界を見た刹那、彼の人生観は永遠に変わったと言います。この淡青色の球体、国境も柵もない、とても穏やかで美しい、そして孤独な世界というものを彼は目にしました。

「我々は、月の探査を目的にここまでやってきたというのに」彼は言いました。「最も印象深い出来事は、我々がこの地球を発見したということであったとは。」

さて。科学的な技術革新は、私たちに繁栄の機会を提供します。それは、私たちの健康と生命、即ち私たちが当然のこととしてあまりに簡単に日々の日常の中で受け入れていることの改善に繋がる便益を提供します。しかし、それは私たちにより多くの何かを与えるものでもあります。究極的には、科学は私たちがそれを確かめることができるのと同等の最も確からしい真実を考慮に入れるよう私たちに強制をします。

そして、若干の真実として、私たちを畏怖感で満たしたりもします。私たちが長い間持ってきた見方、考え方というものが間違いであったというようなこともあります。科学がすべての謎に答えられるというわけではありません。また、時として、自然界のミステリーを理解すればするほど、私たちにはより謙虚さというものが求められたりもします。科学は、私たちの倫理、価値観、主義、信念といったものに取って代わられるものではありません。しかし、科学はそれらに新たな情報を与え、地球の良い一員であるために、子供に食事をさせたり、病人を癒やすことといった道徳的な感情や信念に新たな価値を置く手助けとなるものであります。

私たちは、新たな発見と新たな力を得ることが新たな責任をも引き連れてくることに思いを致さなければなりません。それは、より良い世界のための人類の努力を維持・促進するため、彼我の違いを乗り越えて人類永続のための共通の問題に対処するということの脆弱性のあらわれでもあります。

Kennedy大統領が45年以上も前にこの米国科学アカデミーで演説をした発言をわたくしの最後の言葉と致します。「挑戦とは、要するに、私たちの救済であるかもしれないのです。」

皆様の過去・現在・未来の全ての発見に感謝致します。(拍手)皆様とアメリカ合衆国に神の御加護があらんことを。(拍手)

本日の音楽♪
「Heart Full Of Soul」(ヤード・バーズ