スタスキー&八兵衛

http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090403/biz0904031134004-n1.htm

◆ミツバチ減少で調査実施へ 農相
 石破茂農相は3日、閣議後の記者会見で、農作物の受粉を仲介するミツバチの実態調査を全国的に実施する方針を明らかにした。一部地域でミツバチが減少しているためで、調査結果に基づき、代替となるハチの利用や、輸入促進などの対策をとる方針。
 ミツバチ減少をめぐっては、千葉県の生産者団体らが農相に対策を要請していた。農相は会見で、「千葉県の実情だけでなく、各都道府県での状況を早急にとりまとめる」と述べた。
 ミツバチはスイカやメロンの受粉などで幅広く使われている。米国では2006年ごろに巣箱から大量に姿を消し、問題になっているが、原因は明らかになっていない。

新聞報道にもあるとおり、飼育ミツバチが群ごと突然姿を消すという現象が近年、米国で問題視され、世界的にも関係学界での議論の対象とされているようである。
手っ取り早くWIKIを覗けば状況把握には便利ではあるが、今回の場合、結論から先に言えば、原因がスカっと明らかでない状況の下で諸説入り交じり、WIKIでもキメラ状況の説明箇所が散見されるので、注意を要する。
ここいら辺の情報源が比較的まとまりよい。
http://biology.plosjournals.org/perlserv/?request=get-document&doi=10.1371/journal.pbio.0050168&ct=1



まず、定義。

(蜂)群崩壊症候群((ほう)ぐんほうかいしょうこうぐん、Colony Collapse Disorder、CCD)とは、一夜にしてミツバチが原因不明に大量に失踪する現象である。

米国の飼育ミツバチの約4分の1がこのCCDに遭遇したと言われ、ミツバチの数が過去20年の間に約600万匹から約250万匹まで減少したと言われる。欧州等でも一部でCCDではないかという現象が取り沙汰されている。
ややこしいのは、CCDとよく似た現象は米国で社会問題視される以前から世界各地でスポット事例的に報告されていることもあり、こうした放飼ミツバチの急減・消失が、近年問題視されているCCD現象と果たして同一の要因によるものなのかどうかという点で、区別が困難ということらしい。
日本では、大規模かつ明確なCCDの報告事例は確認されていないようなのであるが、まずは我が国の実態調査に乗り出して、状況把握を行おうというのが冒頭の報道内容である。


世界的に侃々諤々の原因諸説に関しては、①「疫病説」(ミツバチヘギイタダニの媒介によるイスラエル急性麻痺ウィルス、ノゼマ病原菌など)、②「栄養失調説(栄養不足、水不足など)」、③「農薬・化学物質説」(ネオニコチノイドイミダクロプリドなど)、④「ミツバチへの過労働・環境の変化によるストレス説(都市化の進展、他群との交流機会の上昇による蔓延の加速化なども含まれる)」などが唱えられており、こうした諸説は発表文献の中で或る程度の挙証材料は示されているものの、その要因が全ての崩壊条件に当て嵌る決定打といえるまでには至っていない状況の模様である。


なお、こういう混沌とした状況下では、「地球温暖化説」であるとか「電磁波説」あるいは「遺伝子組換え農作物説」といったまことしやかな仮説も顔を覗かせるが、この3説に関しては、明確な挙証材料は示されていないので、仮説の仮説という域を出ていないものと思われる。
中には「フォトンベルト説」などというオカルトな主張も堂々と行われる。(勿論、一切の挙証材料は示されてない。言ったが勝ちのつもりらしいので、フォトンベルトを突っ込んで探求するには及ばない。)
http://www.funaiyukio.com/funa_ima/index.asp?dno=200707002


明確な対抗手段が未だ用意されていない状況の下では、総合的な対策が有効になる。
欧米政府は、以下のような総合対策を掲げる。
米国(USDA) http://www.ars.usda.gov/is/br/ccd/ccd_actionplan.pdf
英国(DEFRA) http://www.defra.gov.uk/news/2009/090309a.htm
いずれにおいても、まずは実態の客観的把握が急務ということで、我が国が執ろうとしているような調査を出発点としている。そうした意味で、我が国のアプローチは間違っていないようである。


最後に、善良と自覚している市民が陥りやすい落とし穴について述べておこう。
こうした原因不明の現象を《地球環境破壊への警鐘》として捉える風潮についてである。大体のところ、最後の結びがそんな調子である論文や報道には、あがり目前に『振出しに戻る』のマスに入ってしまうようなもので、「出直していらっしゃい」と赤点を付けて返してあげるのが宜しい。
飼育ミツバチを環境影響を受けやすい指標生物種の代表選手として取り上げる科学的な根拠が如何辺にあるのか明らかではないが、少なくとも、飼育ミツバチは野生ミツバチとは異なり、特殊な環境下(巣箱はもとより、人為的半強制的大陸移動や訪花の半人為的選定等)で生活環を形成している「家畜」動物である。
その点を見落とさずに創造力を拡げていかなければいけない。飼育ミツバチは湧水に住むイトヨとは違うのである。ましてや、ミツバチは炭坑のカナリアではないのである。
カーソンの情緒に多分に浸りきっている感のある我が国ではあるが[※]、今後の知見の積み上がりに期待をするとともに(優れたミツバチ学者が日本には存在するので、彼らに冷静な分析・取りまとめをお願いしたいところである)、一部の環境研究者や科学ジャーナリストの連中に扇情的にこの問題が取り上げられないことを切に祈ろう。


[※]これを'The Carson Curse' と呼称しておこう。日本人名に直してはいけない。


本日の音楽♪
「恋をしようよYeah!Yeah!」(LINDBERG