バンデル星人はクラゲに非ず

「科学」(岩波書店)4月号の特集は、『驚異のクラゲ』であった。
たいへんに面白かった。
クラゲの奥深さは、蛍光蛋白だけにあらず。
様々なクラゲのカラーグラビアページが大変に美しい。永久保存版である。
特集の中でも一つ取り挙げるとするならば、京都大学の久保田信先生のクラゲの生活史に関する小論文が興味深い。
不老不死のクラゲがいるという。
詳しい内容は、「科学」を読むか、先生の研究室のHPへのアクセスを勧めることとして、とりあえず備忘的にWIKIでその概要を取りまとめておく。
WIKIで「ベニクラゲ」を検索。
ベニクラゲの生活環は以下のとおり。通常のクラゲと大きく変わらない。

受精卵は胃および外傘の中で発生し、プラヌラ幼生となる。幼生は基物に着生して群体性のポリプを形成する。ポリプは基質上にヒドロ根を広げ、まばらにヒドロ茎を立てる。その先端にはヒドロ花がつく。ヒドロ花は円筒形で、その側面にまばらに触手が出る。ポリプ形成後2日ほどで幼クラゲとして個体が離脱する。幼クラゲは数週間で成熟する。

《プラヌラ→ポリプ→幼生→成体》。受験生諸君、要チェックポイントである。
しかし、その後が、通常の動物界では見られない不老不死の所以の箇所。

普通のクラゲは有性生殖の後に死ぬが、前述の通りベニクラゲは再びポリプへと戻ることができる。成熟個体は触手の収縮や外傘の反転、サイズの縮小などを経て再び基物に付着、ポリプとなる。生活環を逆回転させるこの能力は動物界では稀であり、これによりベニクラゲは個体としての死を免れている。

有性生殖能を獲得するまでに発生が進んだ個体が未成熟の状態に戻る例は、後生動物としては本種と軟クラゲ目のヤワラクラゲ(Laodicea undulata)でのみ報告されている。動物におけるこのような細胞の再分化は分化転換(transdifferentiation)と呼ばれる。論理的にはこの過程に制限はなく、これらのクラゲは通常の発生と分化転換を繰り返すことで個体が無限の寿命を持ち得ると予想されている。従って「不老不死(のクラゲ)」と称される場合もある。ただし実際には若返りである。

この現象は地中海産のベニクラゲで発見され、1991年に学会発表されてセンセーションを起こした。その後各地で追試されたが、地中海産のものでしかこの現象は見られなかった。しかし、鹿児島湾で採集された個体も同様の能力を持つことが2001年にかごしま水族館で確認された。

有名なナメック星人もある種の分化転換を行うが(EX.ピッコロ大魔王→魔ジュニアで御馴染み)、彼らには寿命があった(ナメック星の大長老にも寿命があり、ベジータの不老不死の願いは間一髪潰えたわけでありました)。
こちらのクラゲルゲは、理論的には無限の寿命らしい。
不老不死のメカニズム解明については、未だ始まったばかりということのようである。
クラゲの細胞は再生力が非常に強いんじゃないかと思って読んだいたら、近縁のベニクラゲモドキという奴に至っては、再生力が強すぎて若返ることが出来ないと書いてあった。
自然界には未だ未だ不思議なことが山のようにある。
少年少女諸君には是非自然科学への興味を失わずに学理探求の道を歩んでもらいたいところである。


なお、419頁のクラゲ一口コラムも、科学雑誌には珍しい脱力系で宜しい。
コラムにもあるアーサー.C.クラークのクラゲ型大型星人が世間のイメージするところの火星人の原型モデルとなったわけであるが、子供の頃、入浴中に手拭いを湯船に浮かべながら作ったバンデル星人ぶらぶら星人。あれは、茸が原型であったか、はたまたクラゲであったか(今見ると、エリンギの親分のようでもある)。


本日の音楽♪
「アカシアの雨がやむとき」(西田佐知子)