乱歩賞は最優秀新人賞、協会賞は大賞、このミスベストは象印賞

「一本の鉛」(佐野洋)読了。
中学か高校の時以来の再読である。
このような古い作品を何故再び読み返してみたくなったのかと言えば、講談社文庫の当時の黒い背表紙が大変に懐かしく思えたから。
この講談社推理文庫シリーズで好きだった作品を3つ挙げろと言われれば、当時強く印象に残ったものとして思い出すままに、以下の作品を推挙してみたい(何故かその後刊行されていた「虚無への供物」(中井英夫)を別格として)。
・「殺しの双曲線」(西村京太郎)
・「真夜中の意匠」(斉藤栄)
・「一本の鉛」(佐野洋
当時、乱歩賞受賞作品はこの文庫から発出されていたので、概ね栗本薫作品より前の過去の作品を遡って読んでいくのを楽しみにしていた。


それで、本作についてであるが、表題の主意については何とかきちんと覚えていたにも関わらず、全般にわたり、これほどまでにトリッキイな作品であったという認識は持っていなかった。
表題の主意以外にも、密室トリック、登場人物のミスディレクショントリック、推理研究会風の場の設定等々若いアイデアを次から次へと惜しげ無く盛り込んである。
正直なところどれも一つ一つは大したことのない種ではあるが、随所に赤鰊を施して、外連な味わいも見せている。
決して、古色蒼然とした作品ではない。
これを現代風のメタな構造で小説の文章や構成自体を化粧し直せば、十分に新本格派の巨匠の力作としての名でも罷り通りそうである(当時は社会派と呼ばれた)。
若さというものはかくも時代を超えて共通の輝きがあるということを改めて確認した次第。


本日の音楽♪
「バイオリンのおけいこ」(ケメ)