正常・異常の判断は医学の範囲を超えている

長くて。
http://www.latimes.com/features/health/la-he-borderline7-2009sep07,0,761373,full.story

しかも、少なからず認識が違うかも。
http://kokoro.squares.net/border0.html

(仮訳)
境界性人格障害が増えている
情緒不安定、見捨てられ感、衝動的行動、怒り、自殺願望、自損行為といった症状を示す患者たち。障害を抱えた人々は、他人の行動についても誤解しているかもしれない。

 彼らは、非常に薄い皮膚感覚を持ち、周囲とほとんど融け込まず、厳しい境遇環境にある。精神科医の診察室において、彼らは最も興味深い患者として、長い間治療を受けてきた。
 彼らは、仲裁をしようとする友人を追い払い、その後、見放した筈のその友人を叱りつけるような人々である。
 しかし、メンタルヘルス上認知された境界型人格障害が指定されてほぼ20年が経過し、いくらかの理解と希望がそうした症状を持つ人々と彼らの家族の間に浮かび上がってきている。
 境界性人格障害は、5月に行われた全米精神医学協会の年次総会の中心テーマで、複数のセッションとスピーカーがこれを取り上げていた。会議での主題は、明白であった。彼らがこの症例を取り上げて以来数年を経て、精神医学界のリーダーは、現在この症状並びにそうした症状を持つ人々を救うことが出来るというより明確なメッセージを伝えられるようになった。
 「境界性人格障害は或る意味差別用語だと思います。」コロンビア大学精神科医であるリチャードG.ハーシュ博士が言う。「しかし、肯定派の言い訳になるような新しい処方箋とデータが示されています。」
 それは、連邦政府が実施し、昨年公表された24,000人以上の成人調査から明らかになった結果で、境界性人格障害の生涯における発症率がほぼ6%であり、それは事前の推定値の約2倍に相当する数値であった。
 「市民と患者は、この症状についてもっと学びたがっていて、より多くの医者はその治療をしたいと思っているのです。」TARAと呼ばれる境界性人格障害の全国活動グループの創設者であるヴァレリー・ポル氏は言う。

<厄介な関係性>

 「これまでを振り返ってみると…」境界性人格障害と診断された25才の女性の母であるパトリシア・グリーンが言う。
 スーキ(仮名)は子供の頃は非常に多感で、すぐにかっとなる子だった。ハイスクール時代は、家庭学習を望んだために友人作りには苦労をした。
 ハイスクール卒業後、本当のトラブルが始まった。彼女は深刻で不穏な人間関係を抱えこんだ。仕事を首になって、莫大なクレジットカードの負債を抱えた。彼女は自傷リストカット)を行い始め、鬱病と診断された。
 サンディエゴの学校看護士であったパトリシアは、6年前に境界性人格障害に関するワークショップに参加し、自分の娘についての疑念を持つようになった。そこで聞いた説明がまさしくスーキに合致しているように思えたのである。
 「関連があるようでなかったスーキに関する全ての出来事が突然1本の傘の中に収まったのです。」パトリシアが言う。
 スーキ嬢のケースに見られるように、障害を抱えた人々は人間関係を台無しにしてしまう。そして、驚くようなことではないが、その特質的徴候として、情緒不安定、見捨てられ感、発作衝動的な行動、怒り、自殺願望、自傷行為といった可能性を有する。障害を抱えた人々は、他人の動作(表情さえ)も誤解する可能性がある。
 「最善の努力をしても、自分の感情を制御することはできないものなのです。」ワシントン大学の心理学者で障害に関する主任専門家であるマーシャ・リネハンが言う。
 境界性人格障害は男女間で等しく起こり、患者は往々にして他の精神疾患や薬物濫用問題も抱えている。怒り、不安定性、粘質性、薬物乱用といったものの同居は決して美しいものではなく、最も彼らを愛している人々さえ追い払ってしまうがために、障害を抱えた人々は大いに苦しむのだと、専門家は言う。
 「境界性人格障害者を家族に持つことは地獄かもしれません。」境界性人格障害者向け国立教育連合の総統であるペリーD.ホフマン氏は言う。「しかし、我々の家族に対するメッセージはこう言います。どうかあなたの家族と共に最後まで頑張りましょう。何故ならば、それが快方に向かわせるために一番重要なことなのですから。」
 障害を抱えた人々のための最も重要な動きの1つは、より多くの研究結果を公表し、支援ネットワークと処方箋の照会サービスを確立することを目的とした、家族と患者間の強固な弁護活動の出現であった。ポル氏は1995年にTARAを創設し、ホフマン氏は2001年に自らの組織を立ち上げた。2007年に、患者支援グループMentally Ill国民同盟は、公共政策における「優先対象」のリストとして、境界性人格障害を加えた。
 国立メンタルヘルス研究所は、UCLAやニューヨークのシナイ・マウント医学校のような主要な医療機関及び非営利的団体活動グループと共同で、障害に関する国家・地域間の会合を召集した。

<幼児期のルーツ>

 境界性人格障害に関する研究の動きは、この症状に新たな光を投げかけている。当初、こうした行動は、幼児期における虐待、精神的傷害や育児放棄がその原因とされてきた。しかし、最新の研究によれば、障害を抱えた人々が生来、感情的に多感な傾向にあることが示唆されている。虐待は境界性人格障害になる大きなリスク要因ではあるものの、誰もが虐待を経験したり、育児放棄されたというわけではない。
 「両親がよく言うのは、彼または彼女が生まれた時から、自分の子供は普通じゃなかった、ということです。」ニューヨークのマウント・シナイ医学校の精神科医であるマリアンヌ・グッドマン博士が言う。
 全米精神医学協会の会合で発表された調査研究の中で、グッドマン博士は、幼児期に激情的な感受性の徴候を示した子供がその後境界性人格障害と診断されていることを発見した。ウェブ上でのアンケートを通して、グッドマン博士は、障害を持った234人とごく自然な兄弟87人の両親からのデータを収集した。
 博士は、境界性人格障害と後に診断された子供たちが、通常の兄弟と比較して、自身を落ち着かせようと、親指をしゃぶったり、モノ(例えば毛布)への愛着を持ったりする傾向が強いことを明らかにした。彼らは、より多感で、一人になることを極度に不安がり、むら気が強かった。彼らは、幼稚園時に社会的発達の面での遅れがあり、小学校時に例えばほとんど友人がいないとか学校側と対立していたといったような個人的問題を多く抱えていた。
 そして十代の頃は、さらにでたらめで、攻撃的で、衝動的で、薬とアルコールに浸りやすく、リストカットと自殺は日常茶飯事であった。
 「子供たちは、その頃から実際にとても異様なふうに見え始めるのです。」グッドマン博士が言う。
 他の研究では、鬱病の人と比較して、障害を抱えた人は20代までに約5倍も自殺的な行動を起こしやすく入院相当の状態になりやすいことを示している。
 障害を抱えた人々の脳を調べた研究によれば、他人の動作や感情を誤解することや、感情的な受容体の中核部分についての何らかの生物学的素因が存在することが示唆されている。
 例えば、サイエンス誌に2008年に発表された調査では、障害を抱えた人々において脳活動の異なるパターンといったものが示された。スキャンの結果、境界性人格障害患者が他の人とゲームをした際に、両側前島(インスラ)と呼ばれている脳地域で異常な反応を示し、それは公正さと社会的規範の感覚領域についてであった。
 専門家が言うには、そのような研究を通して、それは単に一種の個性のようなものであるかもしれないことが明らかになりつつある。何人かは、そのような心の状態を「全般的な感情の調節不全」(過度に反応するように前もって脳が指示されているような状態)と呼ぶ。
 「境界性人格障害を学ぶことができるとは思えません。」リネハン氏が言う。「彼らは、強烈な感情を持った人々です。感情に対する感性は、おそらくその時になって始めて現れるでしょうから。」
 行動に対する生物学的傾向を強調することによって、セラピストと家族は、境界性人格障害患者が恣意的で論争好きであるとする認識を抑えこみたがると言う。
 「境界性人格障害は、文学、メディア、映画といったジャンルにおいてとても人気があります。」全米精神医学協会の科学プログラム委員会2009年議長のジョジーファA.チョン博士が言う。しかし、メディアは、しばしば誤った不正確な捉え方をしています、とも彼女は付け加える。
 最も突出した描写の1つは、映画「危険な情事」で女優グレン・クロースが演じた狂気のストーカーである。チョン博士が言うには、より正確な描写としては、映画「フォレスト・ガンプ」でのジェニーの性格で、彼女はいくぶん同情的で、けれども自滅的で、普通の生活を望み、それができなかった機能不全の女性として描かれている。
 「それは、とても同情的な描写です。」チョン博士が言う。「それは患者の苦しみというものをほのめかしています。」

<処方箋に向けて>

 尤も、境界性人格障害の人々を助けるための将来に向けた第一歩は、当該症状に特有の治療法を適用することを認めたいというセラピストの意思に拠るのかもしれない。全米精神医学協会の会議で紹介された70人の患者に関する1つの或る研究論文において、34%の人が最終的に境界性人格障害と判断される前に誤まった症状を告げられたことが明らかになった。
 障害の基準を満たす74%の人々が精神科医との最初の出会いから平均10年以上を経ているにも関わらず、これまでそのような診断がなされなかったことが同調査から明らかになった。
 特定の行動変化療法が最も有効らしいことから考えても、正しい診断がまずは重要であろう(関連記事を参照のこと)。
 専門家は言う。いくつかの有効な治療法がある。中でも、弁証法的な行動療法や皆で共有をする共通事項がある。患者とセラピストの間の結びつきは強く、長期にわたり、治療上の契約関係を構築する。治療は過去よりむしろ現在に焦点を当て、いま現在患者が過去についてどのように思っているのか、あるいは、自分自身を被害者とみなしているのかどうかといったことは考えずに、行動パターンを変えていくことに集中をする。
 スーキ嬢の診断後、彼女の母パトリシアは、彼女が非常に繊細で簡単に他人の感情を誤解してしまうということを思い出し、それを確認することによって、娘との意思疎通の方法を変えていった。
 スーキは、境界性人格障害を専門とするセラピストに通い始めた。彼女は、グループサポートミーティングに参加し、落ち込まないための薬を飲み、落ち込みに対してポジティブに立ち向かうための訓練を開始した。彼女は現在、彼女のことを理解してくれて、支えとなるボーイフレンドがおり、彼と良い関係にあり、一緒に大学に通っていると彼女の母は語る。
 自分が境界性人格障害であったことは周囲にまだ話していないと、彼女は言う。ほとんどの人はその実態を理解していないのだ、とも。
 しかし、最近、彼女は自らの腕の傷跡についての事実を語り始めた。「私のこのリストカットの傷跡は、一体何がいけないことだったのかを思い出させるものなんです。」
 「長いこと、私は自分自身が部外者のように思えてならなくて、自分を激しく憎みました。」彼女はこう言う。「今は本当に快方に向かっていることが分かります。時間が経てば、もっと良くなると思うんです。」

記者の肩入れ具合は兎も角として、精神医学関係者のある種楽観主義ぶりには驚いた。カウンセリング療法を頭ごなしに否定はしないが、素人ながら、容易なアプローチで治るとは俄に信じがたい。


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コーリング・ユー」(ホリー・コール