日本人のワクチン嫌いは娘の反抗期のようなものなのか

ワクチン足りない、どうする?と煽る無責任報道がある一方で、ワクチン嫌いという(いちぶ)民の声。とかく日本は面白い。日本人だけでなく、あちら英国でも、駄々をこねている人々が多いらしい。ガーディアン紙の記事より。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/sep/02/swine-flu-vaccine-pregnant-women

(仮訳)
◆妊婦は新型インフルエンザのワクチンを敬遠
 世論調査によれば、妊婦の約半数は、新型インフルエンザの予防接種ワクチン(かつては誰でも経験のある)を受けることを拒絶する意向を示しており、その理由としてワクチンの安全性に対する広範囲にわたる懸念の存在を示唆していることが明らかになった。
 政府に助言を行う専門家チームは、妊婦については予防接種が必要な集団の1つとして特定をしている。7月に発表された米国の研究では、妊婦がウイルスに罹患した場合、一般人よりも多くのリスクを抱えることが指摘されている。米国では6人の妊婦が4月15日から5月18日までの間に新型インフルエンザ合併症で亡くなっている。
 ウェブサイトmumsnet.comに発表された昨日の調査は、ランセットのオンライン版に公表された当該米国研究者の懸念をより固めるものとなった。同調査によれば、回答をした妊婦のほとんど半数(48%)が予防接種の利用が可能であったとした場合、おそらく、あるいは、明確にそれを受けない意向を示している。そして、6%の妊婦が必ず予防接種を受ける、22%がおそらく受けると答えている。
 こうした調査結果から、政府が扱うインフルエンザ戦略のもう一つの今日的な重大危機が明らかになった。製薬会社から独立した存在である「医薬及び治療法紀要誌(DTB)」は、症状の悪化を軽減することができ、すでに利用可能な抗ウイルス薬のタミフルに関する潜在的問題について、政府が一般大衆に洗いざらい話してこなかったことが原因だと述べる。タミフルには副作用があり、薬効への抵抗性が拡大し、闇市場での再販が行われている。
 mumsnetの調査客体である女性たちは、自身の予防接種を嫌うだけでなく、子供たちへの接種についても消極的である。子供のいる女性の46%は、おそらく、あるいは、明確に自分の子供への接種をさせないとしている。5%が必ず接種すると答え、22%がおそらくそうすると答えている。1,458人が世論調査に回答し、そのうち15%は自身又は家族の誰かが既に新型インフルエンザの症例を示したと答えている。
 この結果は、ある意味、新型インフルエンザが多くの人々の間で既に流布されており、比較的温和な症状を示すことの証左なのかもしれない。しかしながら、一方で彼女たちの声は、政府に対してワクチン対策が良い考えであることを事前に市民に対して説得するとの大きな責務があることを伝えるものでもある。
 「たくさんのおかあさんとこれからおかあさんになろうという人たちが新型インフルエンザワクチンを受けるべきか、子供たちにワクチンを供与するべきかどうか疑っていることが、これらの結果から、そして、mumsnetの議論から明らかになりました。なかには、そのワクチンの効果と副作用についてどれくらいよく試験がなされたのか等を心配する声もあります。」と、ウェブサイトの創設者の一人であるキャリー・ロントンが言う。
 「誰もが自らの子供やこれから生まれてくる子供のために最善を尽くしたいと願っていますが、多くの両親たちは、私達のこの世論調査から新型インフルエンザに感染することよりもワクチンの安全性を心配しているようです。」
 英国医療ジャーナル社がオーナーとなっているDTBの編集子は、タミフルの導入目的が新型インフルエンザの伝搬を抑制すること、死亡につながる重篤化を減少させること、流行期間を短くすることによって社会経済上の負荷を軽減すること、利用可能な処方である公的基盤を増大させることにあると述べる。
 しかしながら、DTBの編集子は言う。「タミフルパンデミック状況下で使われるのは今回が初めてなのであるから、防疫担当者や政策担当者に反対をほのめかそうにも、これらのどれも強い証拠にはならないだろう。」
 編集子はこう続ける。「予防に携わる政策担当者は、緊急状況の下では、時として不完全な証拠しかないにもかかわらず何らかの行動を必要とする場合もあるだろうと主張するかもしれない。しかし、そのような場合でも、透明性を持ったリスク評価が重要なのであって、それこそが市民との真のコミュニケーションになるものである。オセルタミビル[タミフル]の広範囲な使用に伴う明らかな潜在的問題といったことが当初の段階から公に提示されてこなかったことは、真に遺憾に思う。」
 英国政府が契約した2つの製薬会社のうち、バクスター・ヘルスケア社が製造した20万パックのワクチンについては、先週から配布が始まった。
 通常の新薬の方法とは対照的に、当該ワクチンは使用認可より前に配布が始まった。次のステップは、バクスター社のワクチンとグラクソスミスクライン社が製造するワクチンの認可を行うかどうかの決定を欧州医薬品庁が行うことである。両製造社は、10月早々までに認可されることを望んでいる。保健省はインフルエンザのリスクにさらされている最もリスクの高い人達にこれを優先するとして、それらには公衆衛生従事者のほかに、例えば、糖尿病患者やHIV患者といった脆弱性を抱えた人を優先対象としている。


相変わらずの教条的な物言いに聞こえるかもしれないが、一般論として言えば、情報公開は大前提である。しかしながら、何でもかんでも情報をたれ流せばそれでオーケイかというとそうではなく、情報洪水では受け手側が混乱をする。受け手側が正しい判断をするための情報提供はどうあるべきか。各論に落とし込むと、とても難しい問題になる。そうした意味で、ガーディアン紙指摘の方向性に概ね異論はないが、そのさらに先は同紙が言うような綺麗なシナリオだけではおよそ問題を捕捉しきれまいとも思う。
この記事を読んで、またBADSCIENCEのおじさんが何か言うかなとも思いつつ、先に記したその受け手側の判断というのは、天秤にかける行為のことである(マクロレベルでの為政者側の天秤行為も当然存在する)。記事にもあるように、要すれば、ワクチン接種による副作用リスクとインフルエンザ罹患リスクの両天秤である。専門的事項になるに従い、素人によるその天秤ばかりの重さの判断は容易ではない。となれば、最終的に専門家の判断に従うしかあるまい。結局のところ、ぐるりと各自が一周をして振出しの傍に戻ってくるというプロセスが理解を早める早道ということ(急がば回れ)らしい。子供が反抗期を経て大人になるプロセスにも似ている。我ながら言い得て妙だが、これにも成立のための必須要件がある。わたくしたち自らが一歩前にあるくということが大前提であり、そのための望ましい環境としては、為政者側の正しい情報提供と受け手側の一定の理解力が必要である(メディアの話やアウトサイダー情報に絡み取られるイネイブラー人の話はまた別の俎に上げておく)。


本日の音楽♪
「ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ」(チェット・ベイカー