肉食系婆

梅雨が明けた途端のうだる暑さの中でひいひい言いながらも、周囲を見渡して「何かが足りない?」と思い悩んでいたら、ハタと気付いて、それは夏の音であった。
2,3日前から漸く蝉の声が聞こえ始めて、気付いた。決して心地よい音ではないが、うだる暑さに格段の効果を齎すものではあることは認めざるを得まい。


そんな夏のと或る日、近所のファミリーレストランへと、優雅にも朝食がてらお出掛けをした。わたくしにしてみれば、贅沢三昧の気分である。
盛況な店内で席に着くと、隣の席におられる妙齢折り返し点を二、三度ぐるぐる廻ってきた位の齢のおばさん二人連れがひっきりなしにお喋りをしながら、召し上がっているのが、その店の特別サービスセール中のステーキ定食であった。
「朝からステーキ…」と内心思いつつも、横目でちらちらと見ていると、健啖家のおばさん二人連れはまったく意に介する風でもなく、お喋りと食事に夢中である。


精神的にも胃袋的にも、朝からあんなに元気な人間を見ていると、ほとほと感心をしてしまうのである。そして、彼女たちこそが、現実の世の中をぐりぐりと回しているマジョリティであることをわたくしは確信するのである。
失礼ながら、彼女たちが政治や経済の仕組みを十二分に理解しているとは思えないし、先頭を切ってわたくしたち大衆を導いてくれる気概に満ちているとも毛頭思わないが、彼女たちは紛れもなく、良くも悪くも、世の中の活力源のマジョリティたる部分でもある。


例えば、薬には増量剤というものが必要欠くべからざるものとして存在する。増量剤自身は薬効成分そのものとは関係しないが、かといって、薬効成分だけでは必ずしも薬は成り立つことができないというのも事実である。
彼女たちを見ていると、その増量剤という言葉が脳裏に浮かぶのである。決して蔑む意味で言っているのではない。


おそらく来たる総選挙における浮動票と呼ばれる領域も彼女たちが多くの鍵を握っているのであろう。候補者達はどうやって彼女たちを誑かすかを画策しているに違いあるまい。わたくしは、「ステーキ定食」が鍵であると、ここでこっそりとサジェストしておこう。
要すれば、肉食系の嗜好である。


ところで、わたくしのようなしがない庶民が、静かに窓の外を見やりながら、プレーンオムレツなどを口にして、ハイソな気分に浸るのは夢の又夢のことである。すかさず天の声がかかる。「納豆定食でも食べていらっしゃい。」


本日の音楽♪
「Do you remember me?」(YUKI OKAZAKI)