わたくしが何でも動物大好きだと思ったなら、それは大間違いなのよね

Y紙の人生相談欄には、時々興味深い内容の投書が掲載されている。
せんに、或る御夫人から、こういった相談が寄せられた。その内容というのが、そのご婦人は新婚当初のお熱も醒めてしまったのか、連れ合い殿の言動がいちいち鼻に付いて我慢がならない、と。そこで、連れ合い殿に対して始終「酷い目に遭えばいいのに」と心の中で思ってしまっているとの由。
日々強まるこういう考えはどんなものなのでしょうか?といった問い掛け自体がよく分からぬものであったと思うが、わたくしは、それを読んで暫くの間、この「酷い目に遭えばいいのに」という念じ文が頭の隅から離れなかった。
本気なのかどうかはこの際置いておくとして、この台詞は大変にキュートで、そして致命的なほどに辛辣ではある。


毎日通る坂道の下った先に一軒の家がある。見上げるような立派な造りの家である。そこの家の前を通ると必ず携帯のワンセグの電波が途切れるほどに、高い壁となって聳える豪奢な家である。
そこには犬が飼われており、普段は家の中に居るのが、時々外に放されているらしく、玄関先の門の隙間の向こうから、突然大きな声で激しく吠え立てられる。
犬の種類はコリー。利口なコリーではなく、キ印の如く、きゃんきゃんきゃんといつまでも道行く人に対して誰彼なく激しく吠え続ける。ヒステリックなほどに異常な吠え方である。
兎に角、不意打ちで吠え立てられることが多いので、その度にわたくしはたいそう驚いてしまう。ところが、先日来、新聞でいい言葉を教えていただいたので、「酷い目に遭えばいいのに」とcurse word のように呟き、それらしき儀式をして立ち去ることとしている。
無闇矢鱈に使う言葉ではないので、今のところ、その利口でないコリー犬に対してだけの呪文ではある。


先日、そのヒステリーコリー犬が家主と覚しきご婦人に抱かれて、玄関先にいるのを目にした。
ヒステリーコリーは、いつにも増して、きゃんきゃんきゃんと主人の腕の中で激しく吠え立てている。よく見ると、その家の玄関の傍の電信柱で、散歩中の別の飼い犬が飼い主に連れられ、縄張り宣言のシッコを悠然としている。
どうやら、ヒスコリは「そこは俺様の縄張りだ」とたいそう立腹の御様子なのである。確かに、その電信柱は、普段から御近所の散歩犬たちの縄張り宣言の巡礼地メッカとなっているようではあった。
普段からのこのキ印に近いコリーの怒りようも、もしかしたら、自分の住処の目と鼻の先での挑発が許せないということがその原因であったのかもしれない。
家主のご婦人は、「あらあら、そんなに嬉しいの。よかったわねえ。」などととんでもないことを云って、キ印を無理矢理家の中に連れ込んでしまった。


わたくしは、「呪文、効いているかもしれない」と密かにまる子ちゃんに出てくる野口さんの如く、くっくっくと笑いつつ、その場を離れていった。


本日の音楽♪
「ノックは夜中に」(Men at Work)