五十五年体制創設の当事者は今はもうほとんどいないだろうが、その残雪は今でも有権者の中に営々と存続をしているということ

最近の不安定かつ流動的な政治情勢については、来るべき臨界点に向け、国内主要紙にとっては引きも切らぬネタを提供し続けてくれるという意味において、マスメディア業界関係者のみ大いに相好を崩しているものと推測される。
だいたいにおいて、情勢は混沌としている筈であるのに、どこの主要紙を読んでも似たり寄ったりの記事内容ではあるので、反権力志向のA紙と体制志向のS紙とを比較して並べて眺めながら、現政権へのシンパシーの大いなる差などを分析してみるくらいが愉しみの一つではある。


そこへいくと外字紙は、身も蓋もないというか、容赦ないというか、相当に辛辣に書きたてているなあと思ったのは、FT紙。裏を返せば、冷徹なほどに客観視しているとも言える。



表題は「従来型の政治に痺れを切らす日本」。
記述の中で、例えば、与党第一党史が簡便に纏められている。外の目からみての政党史である。

(仮訳)
政治評論家達はバブル崩壊以降自民党の衰退を予言してきたが、その予言は何度も外れてきた。確かに1993年に一時的に下野をしたが、変わりに誕生した寄せ集めの連立政権はあくまで軽量のリリーフ投手であって、その後程なく元の状態に戻った。自民党はその後なりふり構わず権力にしがみついてきた。第一に、社会主義運動の母体の一角を吸収し、党内の別のイデオロギー勢力との中和を図った。そして次に、根強い仏教徒の支持者を母体とする公明党と連立を組み、議席数を増やした。第三に、2001年に情勢が再び悪化し始めると、自民党は巧妙なるペテンに走った。総裁に小●純一郎氏を選び、彼は「自民党をぶっ壊す」ことが自らの使命だと広言をして、有権者を納得させるという摩訶不思議な手段を講じた。これが頭に当たり、自民党政権はその後6年間も安寧が続いた。2006年に小●氏が退陣すると、魔法が解けた。後任の安●晋三氏は右傾化を進めようとしたが、参院選で大敗を喫し、重要法案を通す力を失った。その後、福●康夫氏のさえない1年が訪れ、彼は真面目だが面白味のない首相として、失言癖の麻●太郎氏に後身の道を譲った。現在、麻●氏の支持率は10%台にとどまっている。


「今まで国内でも言われてきたことと大差ない」と感じた人は心の大きな人。
客観的俯瞰的記述の中に、「社会主義運動の一角を吸収」「巧妙なるペテン」「魔法は解け」「右傾化」「さえない一年」云々。国内紙ではここまで切って捨てては書けまい。政治部記者として永田町に出入りが出来なくなってしまうかもしれない。


そして、記事の中で、与党第一党が次第に力を得られなくなった理由について、経済の低成長によって、富の再分配機能を維持することができずに地方票を喪っていったこと(おそらく国内外の視線において共に衆目の一致するところであろう)を掲げ、その後の市場主義が輸出主導型経済を期待させ、有権者の関心を一時的に引き寄せたものの、現時点では気まぐれな有権者はその主義に反対の姿勢に転じているとの分析を披露する。


いずれにせよ、このような一党独裁体制がほぼ戦後一貫して維持されてきたその事実に欧米諸国は大きな奇異感を持って見つめている。記事の最後の下りが、そうした意味を込めつつ、これまた辛辣な皮肉で締め括られている。

自民党は確かに不死身の怪物には違いないが、今度ばかりは少なからず「奇跡」に頼らざるを得ないだろう。もしも仮に、(イランの)アフマディネジャド氏が選挙で立候補をして、公明正大な形で当選をする可能性が世界で唯一残されているとすれば、それはこの日本だけであるのかもしれないのだから。


念のために駄目を押しておくが、これは政党批判の内容が本旨というよりも、欧米人の目から見た彼らの考える本来の民意というものを日本の有権者が果たして持っているのかどうか未だにはかりかねているという意味を込めて、日本の有権者に対して懐疑的かつ批判的な視線を投げかけている記事内容である。それが分からない人は最高に心の大きな人。


(追記)
政治ネタを追加で2つばかり。

臓器移植法衆議院可決通過
可決された案がモアベターな選択であるのかどうかは大変に難しい問題ではあるが、次の2点は評価できる。その1.党議拘束をかけなかったこと。その2.複数の案が議員から提案されたこと。いずれも議会制民主主義にとっては、当たり前かもしれぬが、確実な一歩である。そういう意味で、党議拘束をかけた政党と「時期尚早」と否決した議員は、自らの存在をもう一度振り返ったほうが宜しい。「国民的議論が尽きていない」という言い訳を口にした議員もあったが、国民的議論の何たるかは横においてもそれはこのわたくしたち国民の側の意識の低さの問題だから議員は上から目線で考えていただいておって宜しくてよ。


日本共産党書記長のS紙インタビュー
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090619/stt0906191759013-n1.htm
お互いにとって、まあ一つの勝負には違いないのだろうが、これだけ忠実に発言を再現すれば、本音の部分が透けて見えてくる。一方の側はそれを明らかに狙っている節があるが、もう一方の方も正直に奥歯にものを挟めて話すというのは作戦なのか、どうか。奥歯への挟まり方が痛々しいというか。
蟹工船」で共産主義ブーム再来とかいうその現象自体が(本当だとして)、何だかなあという底の浅さではある。


本日の音楽♪
「突然の贈り物」(大貫妙子