鉄塔武蔵野線

誰もに好かれるというわけでは必ずしもないものの、読者を選ぶ本を第一に挙げるとすれば、なんと言っても「鉄塔武蔵野線」(銀林みのる)である。
カルト中のカルト。はまった人はとことん好きになる本である。
粗筋は、小学5年生の美晴くんが部下のアキラくんを連れて、武蔵野線の鉄塔を延々と辿っていくだけのストーリー。けれども、その先には絶対に原子力発電所があるんだとか、鉄塔ごとの新発見や秘密を見つけていくその子供心の冒険心に次第に虜になっていくかどうかが、カルトのカルトたる所以。そして、読者は最後の鉄塔まで辿り着く事ができるか、振るい落とされていくのである。

wikiの解説が簡明である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84%E5%A1%94_%E6%AD%A6%E8%94%B5%E9%87%8E%E7%B7%9A

わたくしが初めてこれを読んだのは、電車男伊藤淳史)君の子役時代(1997年に映画化されている)の裏表紙も懐かしい新潮社版であったが、その後、ソフトバンク文庫から出た完全版には、鉄塔武蔵野線の第1号から第81号までの写真と地図が文中に挿入添付されているという全くマニア向けとしか考えられない装丁版。作者銀林氏のあとがきでメイキングオブが詳しく書かれているのもうれしい。

wikiより)
この作品の日本ファンタジーノベル大賞の応募原稿は実際の武蔵野線鉄塔を撮影した500枚以上の写真プリントが貼付された分厚いものであり、選考委員を驚かせた。単行本化にあたってそのうち340枚の写真が掲載された。その後の新潮文庫版にはやや枚数を増やし全鉄塔・鉄塔看板・結界の写真が掲載されたが巻末にまとめて収録する形となり、両者とも著者としては不満足なものであった。2007年のソフトバンク文庫からの再版では全ての写真が著者指定のレイアウトで収録された。このことがソフトバンク文庫版が「完全版」と言われる所以である。

物語の最後の顛末の箇所がわたくしはお気に入りなのであるが、初刊の単行本版から新潮社文庫版で書き換えられたといい、わたしは文庫版以降しか知らない。

小学校時代の夏休みをもう一度共感したくない?といって、読んでほしそうな人を見極めつつ、この世界へといざなう。そんな本である。
おそらくこんなジャンルのこんな内容のこんな本は二度と世に出てこない。柳の下に二匹目の泥鰌は絶対にいない、空前にして絶後の本である。作者本人だって続編は作れまい。
日本ファンタジーノベル賞に選ばれたんだそうで、それがいったいどれだけのステイタスがある賞なのかは定かではないが、選んだ審査員は間違いなくグッジョブであろう。


本日の音楽♪
「美しき天然」(藍川由美