隠れた逸品

確かにミステリの範疇に含まれるとは思うのであるが、純文学(純愛小説)としても、「錦繍」(宮本輝)に並び賞するほどの名作であるとわたくしが推奨するのが、「離愁(旧題:汚名)」(多島斗志之)である。
多島作品といえば、「症例A」や昨年話題になった「黒百合」辺りが代表作として取り挙げられる傾向にあるが、この「離愁」が彼のベストオブベストであるというのがわたくしの意見。
主人公の女性の頑なまでのストイックさに魂が揺さぶられること必定である。
惜しむらくは、表題が良くない。B級メロドラマのようだ。
書店員のプッシュがもっとあってもよい。


実は、この作品をこのミスの過去20年間のベストオブミステリとして推薦(各人6作品)している識者が2名もいた。判っている人は必ず判っている。
確かに「火車」(宮部みゆき)のように万人が万人「よし」と認めて、結果として一位に推挙される状況は理解できるのであるが、どのアンケート結果を見ても同じ顔ぶれでは正直なところつまらない。
ミクロ(個人)レベルでは、もっと思い入れや起伏があってもよい。
そこで、わたくしの過去20年間に刊行されたミステリのベスト6を。


1「離愁(旧題:汚名)」(多島斗志之
2「異邦の騎士」(島田荘司
3「わたしが殺した少女」(原籙
4「幻の女」(香納諒一
5「地図のない街」(風間一輝)
6「合本・青春殺人事件」(辻真先


正直なところ順不同である。次点は「ホワイトアウト」(真保裕一)、「ダックコール」(稲見一良)、「剣と薔薇の夏」(戸松淳矩)辺りか。「ベルカ〜」も惜しい。1から4までは既に何処かで述べた。3は「そして夜は甦る」でもよい。5は「男たちは北へ」が巷では人気が俄然高い(出版当時よりもである)。わたくしもそう思うが、あえて一番明るさの少ない作品を選んだ。とはいっても、やはり内容は風間ワールドである。6は再出版ではあるが、中学生時代に元本の3部作を朝日ソノラマ版で読んで、或る意味、わたくしのミステリ趣味の方向付けをした作品群。メタな超絶技巧ワザの魁。
あと10年してまた別の思いが自分の中に生まれているのかしれない。したがって、現時点で思うところのベスト6.ということである。


本日の音楽♪
表題の如く。
「見えないフェイス」(安藤秀樹)