科学ジャーナリストって、「科学」+「ジャーナリスト」じゃないのね

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090327/141968/?P=1
ああ、吃驚(:びっくり)した。
何が吃驚したと言って、まずこの見出し。

◆iPS細胞、実用化間近

ほんのついこの間、実験室レベルで細胞の再生化の多能性の検証が漸くにして出来たばかりのものが、どうして今にももうすぐ実用化になるのか?と、この見出しを見て、まず大いに戸惑った。
IPS技術を用いて、いったい何が実用化されるのだろうか。
それにつけても、安全性の検証のハードルは、相当難儀なステップを要するはずだったのではなかっただろうか。
掲載日付は3月31日付。4月1日には未だ1日ばかり早かった。



そして、この記事を書いた筆者の名前を見て、またそれ以上に驚いてしまった。これは…
もしやもしやのあの筆者なのであろうか。
…然り。あの筆者である。
いつも自らの略歴にステディな理系キャリアを強調してはいるものの、自然科学とは似て非なる世界において超越した独自の視点と論理で、食品添加物や化学農薬やらをファナティックに口角泡を飛ばして常に糾弾をし続けてきたあの筆者であるからにして、IPSなどという人為に塗れた細胞工学的な先端技術分野は、余程お口に召さないのではないかとわたくしはてっきり勝手に邪推をしていた。
であるから、「IPSは神の摂理に反する」とか「安全性に異議あり」といった近代文明批判の記事内容なのかしらと読んでみると、小見出しだけを取り上げれば以下の通り、

再生医療の実現に大きな期待が持たれるiPS細胞
◇iPS細胞は倫理的な問題点が少ない
◇iPS細胞のがん発症率は、当初予測り3倍も高い
パーキンソン病の治療にも大きな期待が持たれるiPS細胞
◇iPS細胞の完全実用化までの道のりはまだ遠い

古今東西の神様は、どこにもお出ましあられない。
倫理問題のハードルも低いのだそうで、癌化等の懸念が払拭されれば、再生医療の救世主になろうという楽観的持ち上げ方である。
少なくとも、筆者の頭の中では、IPS(技術)は食品添加物よりも人体への危害リスクが小さなものとしてハザードの序列化が行われているらしい。
口にさえ入らなければ、移植でも注射でも何でもオーケイなのかしら。
もしかして世間に阿るための変節か、はたまた宗旨替えかとも一瞬考えてはみたが、筆者の視点がアカデミズムの世界を超越しているために、もともとのスタンスが常人にはよく理解できない。したがって、普通の凡庸な物差しで判断してみたところで、仕様がない。もしかしたら「体細胞クローンはけしからん」などといっているやもしれぬ。
いずれにせよ、「◆iPS細胞、実用化間近」との表題を打っておきながら、「◇iPS細胞の完全実用化までの道のりはまだ遠い」という、あらぬ方向の記事内容であるから、凡そマスメディアの常識という奴も超越しているのかもしれぬ。


本日の音楽♪
「しらけちまうぜ」(小坂忠