ばった→ばたばた勢いよく落ちたりするさまの擬態語から、「投げ売り」を意味する古道具商の隠語。偽物商品や粗悪品を「ばったもん」と呼ぶ。

年の瀬恒例のあっこちゃんのコンサートに行き(※いきなり話は脱線するのだが、「コンサート」のことをその昔「リサイタル」と呼んでいた。今、そんな単語を声に出せば、くすりと微笑われてしまうだろうか。その後、「リサタイル」は、「コンサート」あるいは「ライヴ」といった単語に置き代わり使われるようになったのだが、そう言えば、そう遠くない昔の一時期に、「ギグ」なんて呼び方もあったように思う。専らビートバンド系への使い方であったような。今でも使っているのだろうか。「ギグ」。わたくしは恥ずかしくて使えないが。)、プロフェッショナルなミュージシャンの熱演を十二分に堪能をし、表参道の復活イルミネーションの歩道に溢れるアベックたちの群れ群れ群れをかき分けかき分けて、外は冷え込んでいるのに車内が妙に蒸し暑い日曜日の夜の電車に揺られながら、少々お疲れの身で漸く家に帰ってきてからの話が、本日の主題である。



週末にと或る電子製品をと或るディスカウント店で購入し、それのセッティングに取り掛かったのがコンサートから帰った当日の午後10時過ぎであった。
その製品、実は市場実勢価格の1/10以下で、名前も知られていないようなメーカーの製品であった。ばったもんという類のものであろうか。兎に角使えれば上々なのさと、安さだけに、そう、安さだけにただ目が眩んで買ってしまった。
購入時から多少の不安がなかったわけではなかった。しかし、その予感がここまで見事に的中するとも思っていなかった。
まず、インストールの説明書が入っていない。パコソン機器にそう詳しいわけでもないわたくしは(殆ど素人)、そこで不安の種がまず芽生える。インストール用CDと思われるものがあったので(それさえの説明書きもない)、それをパソコンにセットして、自動的に強制起動させようにも、何がご機嫌を召さないのか立ち上がる気配もない。
仕方がないので、CD内のプログラム内容をエクスプローラでいちいち確認しながら、パソコンでの初期動作準備まで辿り着いたのが、既に午前0時を回っていた。
当初から躓いてしまった、本来の作業を始める前からこんなに時間がかかるとは、とぼやきながら、その後、本格作動をさせるべく、データ入力開始を行った。
草木も眠る深夜、こつこつこつこつと単純な作業を我ながら根気よく繰り返し、データ入力の一応の目途がついたのが午前4時前。文章にすればワンセンテンスの短さであるが、この数時間の中に我ながらわたくし自身の根気と忍耐の加減が詰まっているというものなのだった。
漸く一安心をして、データがきちんとデバイス内に納まっているか、本体動作の確認デモを行ってみる。これが確認できなければ、本当に得心して床にはつけない。
だが、デバイスは動かない。全くぴくりとも動かない。電源が入っていないとか、スイッチを入れ忘れているとか、そんな単純なミスであれば、自分を笑って戒めることもできるのに。不安の予感の暗雲は結局冷たい雨を降らせ始めた。
一体なにがどうなってトラブルが生じているのか。全く分からない。デバイスは暗い画面をみせたまま、一向に貯め込んだはずのデータをちらりとも見せてくれようとはしないのだった。
もしかしたら、この数時間、わたくしは、ブラックホールの中にデータという石を投げ込む作業を延々と繰り返していただけのことであったのか。
「途方」という言葉と「徒労」という言葉が、わたくしの頭の中で仲良くシンクロしながら、愉しげに合唱をし始めた。
明け方前の一日で一番の冷え込みを見せようとする外の暗闇に目を向けながら、わたくしは溜息をついた。これから床についても、睡眠時間が3時間ほどしかない。月曜日。これからお仕事が続く一週間が始まろうとしているまさにそのスタートの明け方前に。まったく愕然と、途方に暮れる素人一人。
取説や手取り足取りのガイド本などの十分な接待サービスにならされた消費者にとって、ばったもんほど危険なものはないということがつくづくよく分かった。わたくしは余りにも恵まれすぎていた。
老い先の時間が限られるわたくしの6時間を返せとは言わない。そんなことよりも、寝不足とショックでこんなにぼんやりとした頭でこれからの一週間を無事に過ごしきれるかどうか、そちらの不安のほうがよほど大きい。
ブログが何だというのだ。そんな方面まで頭が回るものか。



なお、冒頭のあっこちゃんのコンサート。
今年のテーマは、JAZZというよりも(2年前までの別トリオの方がよりJAZZIE)R&Bのグルーヴ感が真骨頂とみた。
狂気に触れる寸前の超絶技巧天才ギタリスト、ダイナミックでパワフルでキレと品の良いドラマー、あくまで哲学者のように論理的でストイックなベーシストの3人が我を忘れない冷静でかつ超絶な熱いうねりをきかせる。あっこちゃんの奔放ピアノがそれらに絡む。絡む。それはそれで素晴らしいセッションだったが、あっこちゃんも昔のようなエネルギッシュな演奏ばかりの人ではないので、3人の外国人たちの演奏パワーを凌駕していたのかどうかは不明。わたくしは、ギタリストやドラムスらの超絶な力強さがより印象に残りました。
彼女のもう一つの魅力であるピアノに愛される繊細さを求める向きは、4月のピアノソロ公演にいくしかないということかしら。
(それにつけても、10年以上、さとがえるに通い続けているが、オーディエンスの平均年齢がめっきり上がってきているように感じられた。)


もうひとつ追記:会場1階中央最前列から2列目くらいの特等席に座ったお客さんが演奏に合わせてそれはそれは激しく上半身をスウィングさせていたのだけれども(ポルターガイストかと思った)、左右前後の人はさぞや大変だったろうな。


本日の音楽♪
「woman」(dudu braga)