はたらくおじさん

以前ここで、わたくしが小さかった頃に、焼き芋屋になりたかったのだよという話を書いたかもしれない(たぶん書いた)。
最近は13歳近辺ジュニア用のハローワークガイド本まであるという、なにかと痒いところにも手が届くたいへん便利な世の中になったわけである一方で、当時は極めて狭いトドラーワールドの中での限られた情報を基にして職業選択を決断していたのであったわけだ。
当時、焼き芋屋に憧れたワケは、焼き芋が何より好きだったこと(なのに、母は蒸かし芋しか作ってくれなかった…)、それと晩秋(初冬)の夕暮れ、寒空の下をリヤカーを曳いて歩いて行くおじさんの後ろ姿が妙に心に残っていたからであった。
子供心と秋の空の如く、その夢はすぐに目紛しく別の夢へと心移りしていくわけであったが、実は暫くの間、わたくしは、郵便配達員になることに強く心を惹かれていた時期があったのだった。
そうした想いを強くする原因となったのが、教育chで放映されていた「はたらくおじさん」であった(当然の事ながら、「サラリーマンNEO」の紛いもののやつではない)。
しっかり者小2生のタンちゃんと食いしん坊のペロくんが登場するこの番組は、わたくしの当時のフェイバリットで(このほかに、好きだったのが「理科教室小学○年生」とか「みんななかよし」とか。主題歌も覚えているぞ。♪ターンちゃん、ペーロくん、二人でランランラーン♪とか♪口笛吹いてー空き地に行ったー知らない子がやってきてー遊ばないかと笑って言いったー♪とか…ああ、唄うのはそのくらいで辞めておけということですか…)、この番組の或る回で登場した郵便配達のおじさんが北国の雪山の中を徒歩で郵便配達するその姿に暫し純な幼心を打たれていたのであった。

当時その放映回が相当強烈に心に残っていたらしく、勤労奉仕の心という情操教育上大変重要な観点で、相当の効果をもたらしたのではないかと推測される。
もしも仮に、その当時の気持ちを初志貫徹していたならば、わたくしは、所謂公務員になって、その後、民営化により日本何とかという会社の社員になっていたわけであるな。現在のわたくしから類推をするに、空想じみていて、なかなかに複雑な心持ちではある。
その後も、いくつかの職業を想像してみたりしたのだったが、当時の小学校の文集では、野球選手やアイドル歌手などというほんとうの夢を除けば、確か学校の教師と看護婦が圧倒的な人気職種で、わたくしは当時から捻くれていたのでそういった人気メジャー職種にはまったく目もくれず、マイナーな仕事ばかりを夢想していた。(というか、それでなくても目線が失敬なわたくしが人の上に立って何かをするなんてことは世間様が到底赦してくれまい。)
御陰様をもちまして、結果的に小学校の文集で書いていた希望職種の一つに就いたわけだが、教育関係とか医療関係とかそういった偉そうな分野と一切無縁の世界の仕事に就いたこの現状も初志貫徹といえるのかもしれぬ。
なお、冒頭の「13歳のハローワーク」(わたくしのこどもの蔵書になっている)にも、自身の職種が具体的に記載されており、なかなか微妙な(「微妙」としか言えない)書きぶりをしている。
いずれにせよ、こどもたちの思い込み、一念は侮れない。したがって、こどもたちは実際に自分の目と耳で見聞をして自分の将来を決めるに限る。(最近は、学校でもそういった職業体験学習の機会が十分に用意されているようである。)


本日の音楽♪
翼の折れたエンジェル」(中村あゆみ