山型ブレッド、レバペースト、そしてフレッシュグレープフルーツジュース

駅なかのコンコースで呼吸を整えるために、暫くぼんやり佇んでいたら、突然若い女性に声をかけられ、それがフィギュアスケートの美姫ティそっくりであったのだが、どうやら彼女日本人ではないらしく、「アノ、ニホンゴ、、、ワカラナイ、、、×××?」と駅名を尋ねられ、こちらからは(同様に片コトの英語で)教えてあげると、彼女は破顔一笑にこやかに駆け出し、向こうへと去っていった。世の中には随分可愛い娘もいるものだ、どうしてわたくしはしょっちゅう見ず知らずの人に道を尋ねられるのだろう、などと頭の隅で考えながら、彼女の後ろ姿を見送り、どうも最近の日本の女性は「モサモサ感」が過ぎてきてはいないだろうか、という思いが急に心の中で頭をもたげてきた次第なのである。
モサモサ感。それは何なのだろう。大人でもない子供でもない、青春の象徴のような、シャイネスのかたまりのような、それでいて、形にならない醜いもの。従来はむさい青年男子だけの特権であったこのアイテムが女子の武器にもなっている(いったい何の武器なのだ)。けれども、一方で、そんなモサモサ感と無縁の若者たちも存在するのである。あの美姫ティ似のアジア娘のような。
都会での雑然とした一種孤独な生活を送っていれば、電気ポット内の炭酸カルシウムのように日々の中でじわじわとこびりついてくるものなのだろうか。例えば、沖縄の海に潜りに行ったりすれば、それはひととき解消できるものなのだろうか。わたくしは、西伊豆の海で疑似スキューバ遊びに興じたことがあるが、海水ワールドに漬ったその後、胸を張ってスキップするような感覚を掴んだ記憶は全くない。あるいは、標高1200メートル余の高原のただ中で雷雲から全速力で逃げ出していたあのときも、モサモサ感からは脱出できなかったような。
彼女の弾むような笑顔と駈け出した後ろ姿を脳裏に焼き付けつつ、わたくし自身喪った何かに思いを致しているということなのだろうか。

LAタイムズ紙健康欄から。

◆世界の重大ニュース:マーマイト(※イーストエキスのペーストで調味料や、スプレッドとしてトーストに塗って食べる)泥棒のショッキングな話
多発集中している万引犯が英国シェル社のガソリンスタンド店を苦しめている。

 犯人は、酵母エキスから作られたその黒いタール状の塩味の効いたマーマイトの瓶を次から次へと担ぎ上げては盗んでいった。その瓶の数は18本。キングスソープという町にあるその店は、終ぞ諦め、もうそれを店内に蓄えて置かないことに決めたのだった。
 英国のビッグニュース。警察がマーマイト泥棒の痕跡を追っている。彼が事をどんどん処理していることに関しては無限の理論づけが可能である。それに関しては、「スプレッドem」との表題記事を読まれたい。
 英国サン紙に掲載されていたのは「マーマイト泥棒を探してます。」サン紙や他の報道では、男性が防犯カメラによって現場で取り押さえられ、何人かの人々が、瓶はマーマイトがどんな麻薬犬でもかぎ分けられるほどに非常に強い匂いがするので、麻薬輸送の際の役に立つかもしれないのではないかと考えているのだと記載されている。
 「犯人がそんな短期間で自分だけでそのすべてを食べたとは信じられないことから、マーマイトのアウトレットが出回っている筈だ。」英国・ミラー紙のジム・キアリー編集長は論評した。
 だが、おそらく、そうではないだろう。
 そのスプレッドはとても塩辛いものであることから、一面に塗られたバタートーストのバターをこすり落として使わざるを得ない。アメリカ人にはマーマイトに対する英国人の欲望がほとんど理解できないのだ。あるいは、他の国々の大部分もそんな感じだろう。しかし、それは特定のビタミン源となるすばらしい食材であって、それは公式のマーマイトに関するウェブサイトの栄養ページを見れば一目瞭然である。(マーマイト販売店と公式のファンクラブも掲載されている。)
 ナイフの先につけた4グラムのマーマイトには、ナイアシンのRDAの35.6%、チアミンの16.6%、リボフラビンの17.5%、葉酸の50%、ビタミンB12の60%を含んでいるのだ。(したがって、18個の瓶全てを食べたなら、マーマイト泥棒は今ごろ病気になっているだろう。)

マンホールの蓋を盗んでみたり、某社製の玄関の扉だけを専門に盗んだり、泥棒も古今東西そのスタイルは様々である。


本日の音楽♪
「一瞬の想いを」(Hi-Fi Camp)