命名考

通勤途中に十匹近くにもおよぶ猫たちを放し飼いにしている家があり、その家のある通り筋をわたくしは『キャットストリート』と密かに自分の中だけで命名呼称していたのであったが、先日、通りすがりの学生が雑談の中で「いまさー、『猫街道』歩いているところォ」と口にするのを耳にして、「成る程そうか。『猫街道』というのか。」と、現代的若者センスを少しばかり学習させていただいた。
この猫街道、何匹もの黒猫たちがわたくしの前を悠然と横切っていくので、「不吉な!」などと思う暇もない。猫たちに向かい、「縄張りを失礼させていただきます」という心境で、神妙に通らせていただいている。

◇1位「チョコ」、2位「ココ」、3位は「マロン」。ペット保険会社「●ニコム損害保険」(東京都新宿区)が保険に新規加入した0歳犬約8万6000匹を調査。スイーツのような名前が上位を占めた。

http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20091106ddm041040053000c.html

保険に加入するお犬様の数の多さは、さておき、この記事を読んでまず思ったのが、名付け親は女性なのであるのだな、ということ。人間様への名付け親の男女比がどうであるかは知らないが、ことお犬様に限ってみれば、女性の割合が圧倒的に高そうである。むさ苦しい男たちがスイーツ系の名前を好んで考える筈がない。「ショコラ、おいで」とペットに向かって呼びかけるそのたびに、ペットの円らな瞳が「お前がつけたんかい、ショコラって」と語っていそうで、一生ものの不覚と思うに違いないのである。

そこで、わたくしもお犬の名前を考えてみたのであるが、この際、和食系スイーツはどうなのだろうか。例えば、「鹿の子」「落雁」「みたらし団子」「甘食」。流石に「苺大福」は可哀相だと思うが、「落雁」なんて、高貴な名前に思えてこないだろうか。こないだろうな。けれども、「マロン」がよくって、「落花生」がいけない理由はないと思うのであるがな。

独り暮らしの頃、無理矢理家に束の間住まわせていた野良猫の子供には、『フグ田タラオ』と命名をした。不意の事故ですぐに永久の別れになってしまった不幸な想い出があるのだけれども。いま、名前を付けるとすれば、『八丁堀』なんて、そうとうに粋でよろしいのではないか、と密かに考えている。

とまれ、命名はセンスが問われる。茶道のお稽古の際に、茶道具の銘を聞かれたりして、咄嗟に何か洒落た名前を考えなければならない。
「この茶杓の銘は何というのでございますか。」
「『麦藁蛸』でございます。」
「鮹…。銘の由来は何ですの。」
麦秋の時候を表しているものでございます。」

いずれにせよ、こんなセンスしか持ち合わせていない。


本日の音楽♪
「そっとおやすみ」(布施明