電光石火の彼女たち

9'58の驚異的世界新記録というU・サンダー・ボルトの衝撃も醒めやらぬ世界陸上ベルリン大会男子100メートル競走であったが、それに先立つ女子100メートル競走をテレビでのんびりと眺めていたわけである。

世界各国から集まった女性スプリンターたち。おそらく出場選手の誰もが地元の学校の運動会では連戦連勝の無敵で、仲間内では神童扱いをされてきたのであろう。神童達の中からスーパーチャンプを決める争いでもある。

男性顔負けの筋骨隆々とした体つきのスプリンター、バンビのように可憐ながら贅肉の全くないしなやかな筋肉を纏った華奢なスプリンター、宗教上の関係でマスクをした選手もいる。

そうした中で、第一次予選の観戦中に、周囲の選手とは全く異なる、どう見ても筋肉タイプやバネタイプではない体つきの選手が目についた。正直、ダイエットに失敗してリバウンドしてしまったお笑い芸人のような「ぽっちゃり系」の体つきをしている。

どうみても有力選手ぽくはない。アナウンサーも解説者も何のコメントもない。カメラも特に注目してその彼女の姿を追おうとはしない。この人、本当にスプリンター選手なのと観ていたところ、スタート号砲一発、一斉に選手達は駈け出した。

横一線に並ぶ選手達をカメラが捉える。スタートラインから3,4歩駈け出しただけなのに、カメラの左枠へと彼女は瞬時に消えていった。故障の仕草は全くない。一生懸命に走っている。遅っ。遅すぎる。

結局、彼女の公式記録タイムは14秒台かそこらであった。中体連でもどうかという。芸能人運動会の記録と大して変わらないのじゃないか。というか、若い頃なら、わたくしでも勝負できそうだ。

日本からは国際標準記録を何とか突破することができて、晴れて史上3人目の選手の出場とあいなって、そして、初めて一次予選を突破することができたというニュースが流れる一方で、世界にはこういう選手もいる。

彼女はきっと世界との差を痛感しただろう。何より、体格改善から取り組むべきことに気が付いたかどうか。世の中は広いものだと改めて勉強をした世界大会ではある。こうした楽しみがあるから、世界大会は面白い。


本日の音楽♪
「雨のリグレット」(稲垣潤一