マニフェストはイタリア語。イタリア人の公約。

「中庸でお行儀が良い」と先日、評してみた現野党第一党マニフェストであったが、巷の声から判断するに、どうやらそうでもないらしい。
尤も、例えば、温室効果ガスの排出量を2020年までに25%(1990年比)減らすとした目標に対して、「できっこないじゃない」と経済界を中心に激しく噛み付くことは容易に想像が出来た。さりとて、おそらくそれは、或る意味、ポーズ(格好付け)なのだと考えれば、その底の浅さも類推できるというもので、お行儀が悪いとまでは言えまい。新聞情報に拠れば、月末には、対抗勢力である現与党第一党からのマニフェストも公表の予定であり、その中には道州制の工程表も含まれるのだそうである。現実性・実現性という観点から見れば、25%削減目標のそれと大差ないように思えるのである。したがって、そうした実現可能性という意味から、お行儀の具合に対する認識を修正する意図ではない。


端的に言えば、前述のフリンジな内容の公約以外に、より直裁的な「劇薬」が含まれていた。それは、米国との自由貿易協定(FTA)の締結についてである。農林水産大臣が記者会見で猛反発をしている。少々長いが引用しよう。
http://www.maff.go.jp/j/press-conf/min/090728.html

民主党マニフェストを拝見をいたしました。外交のところに、このように記されております。米国との間で、自由貿易協定、FTAを締結すると、貿易投資の自由化を進める、というふうに言い切っておられるわけです。締結すると、つまり、民主党が政権を取れば、願望ではなくて約束を言っておられる、マニフェストとはそういうものですから、締結をすると、民主党政権になれば、合衆国とのFTAが締結をされるということになるわけです。
そうすると、とうもろこしはともかくとして、コメでありますとか、麦でありますとか、畜産物でありますとか、そういうものが、除外をされるということは、FTAの本質に鑑みて、合衆国の利益ということから考えて、それは、まずあり得ないということだと思いますよ。
そして、合衆国の側としては、「では、自動車なんかどうしてくれるの」ということがあるでしょう。その場合に、「それでもFTAを結ぶのだ」ということになった場合に、両方の利益がなければ結ばれないということになれば、では、合衆国の利益とはなんぞやと、米麦であり、畜産物であり、それを日本に対して輸出をすると、除外はしなければ。合衆国の利益にならないわけですから、そういうことをやった場合に、では、本当に我が国のコメ、麦、そして畜産物、壊滅的な被害を受けるに違いないということでありますが、そのことを承知の上でFTAを締結するというについては、私は、大いなる疑問というものを感じざるを得ないということ。
加えて、WTO体制というものをどのように考えるかということです。世界第一位の経済大国たる合衆国と世界第二位の日本の間で、FTAが締結されるということになった場合に、WTOの存在意義というものをどう考えるか、WTOにて我が国が、多様な農業の共存というものを訴えている時に、では、「合衆国とだけはこんな話をします」と言った時に、我が国の主張というものが、WTOの中で本当に説得力を持つかどうかということであります。

米国とのFTA締結という大嵐によって、日本の農業・農村は壊滅的打撃を受けてしまうではないか、戸別所得補償なんて点滴療法は根底から吹き飛んでそれさえも壮大な無駄金になってしまうではないか、といった批判である。
そうした懸念の声に対して、提示側の議員並びに党関係者は、おそらく「是々非々で判断することですから」とか「米麦畜産は自由協定の対象外にするのです」とか何とか弥縫した答えを返すものと勝手に推測をする。
しかし、細部の詳細設計さえあれば、何とか説明ができる可能性もある事柄(例えば、ガソリン税暫定税率の廃止に伴う財源の確保等)とは異なり、本件は根本的思想的に相矛盾する方向性を内包していることを上記大臣記者会見のコメントから読み取ることができる。
いずれにせよ、少なくとも、この取りまとめ者の思考の枠内において、世界の中の日本農業という視点は、あまり持っていませんですということがよく分かるし、米国との間の利権に固執する一部勢力の声が背後に蔓延るという事情をも察することができよう。


日本人は縦横きちんと辻褄を合わせすぎるが故に窮屈になってしまう欠点を持っているが、そうは言っても、相矛盾する事柄を内包しているのであれば、それを克服するためのアウフヘーベンとも言うべき上位思想は、やはり提示する必要があるのではないだろうか。

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7月30日(木)追記
早速いの一番の当事者(現野党第一党)軌道修正である。修正は悪いことではないが、余りに方向性が矛盾していた。やはり、常識的に考えてアウフヘーベンは無理であったということのようである。
http://www.nougyou-shimbun.ne.jp/modules/bulletin/article.php?storyid=2899

民主党は29日、衆院選マニフェスト政権公約)に盛り込んだ米国との自由貿易協定(FTA)締結についての声明を発表した。米国とのFTA交渉で「日本の農林漁業・農山漁村を犠牲にする協定締結はありえないと断言する」とし、農産物貿易の自由化を前提にしたFTA締結を強く否定した。

農村票の獲得を巡って、両者の非難合戦の攻防は暫く尾を引きそうではある。



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「哀愁のシンフォニー」(キャンディーズ