悪湿而居下

皮相な記事を皮肉混じりに取り上げてばかりいて、心根まで捩子曲がっている人間だと自覚自嘲するのも癪なことではあるので、たまには素直に頷いてみせる教師思いの生徒を演じてみたい。


軍事外交関係は門外の上、興味も余り沸かないのであるが、この記事はたいへん勉強になった。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090331/142712/
『◆近づく「テポドン2」打ち上げ』
という表題の記事である。
今月4日から8日の間と通告されている所謂テポドンロケットに関しては、打ち上げを巡る国際的な陰日向の駆け引きや、国体護持のためには手段を選ばない彼の国の特異性だけに目を奪われがちであるが、本記事は、今回の打ち上げに関し技術的な視点から簡要にまとめられている。


まず、今回の打ち上げが、彼の国の発表する「衛星」なのか、周辺国が主張する「ミサイル」なのかとの見解に関しては、どちらも基本技術的なものは同一であること、衛星軌道に乗せることを前提に真東の方角への打ち上げを予定していること等を理由に、「衛星」であろうとの見解を示しているが、

今回の問題の本質は、「衛星打ち上げか、ミサイル実験か」にはない。衛星打ち上げの技術は即ミサイル技術でもある。2006年に核実験を行い、自らを核保有国として扱うよう要求している国が、ミサイル技術を持とうとしているということに問題がある。

と釘を刺す。
この辺のくだりは、主要新聞の論調(国連安保理決議違反)でも共通して目にしているところである。


なお、「衛星」であったか「ミサイル」であったかの爾後検証に関しては、

打ち上げを観察していれば、離床後1分程度の軌跡の違いから、衛星打ち上げを狙ったのか、それともミサイル実験を行ったものかは区別することができるはずである。

とのことであり、離床後の軌跡が、真上への軌道ならば「衛星」、斜め45度ならば「ミサイル」との由。


残骸の落下等に伴う我が国への直接的人的被害については、その可能性が比較的小さいものであることを予測(だからといって、打ち上げを容認してよいものではないとも言及)しつつ、今回の打ち上げについて、技術的な観点から、次の2つの疑問点を示す。これが興味深い。


第一に、なぜ、前回(1998年)の打ち上げの時のように津軽海峡上空を飛び越えるコースを採用せずに、秋田県から岩手県にかけて、本州を飛び越える軌跡を採用したかとの点。
「衛星」打ち上げのためには、真東への打ち上げ(秋田、岩手上空コース)が最適となるが、真東から4度程度の方向角度の変更(津軽海峡上空コース)を行ったとしても、「打ち上げ能力に対してさほど大きな影響を及ぼさない」との見解である。
瀬戸際のブラフカードなのか。尤も、そもそも、

国際常識的には、打ち上げの途中でどんなトラブルが発生したとしても、他国の領海・領土にロケットの破片が落下するような打ち上げ軌跡を採用するべきではない。たとえ衛星打ち上げであろうと、可能性は低いものの日本領海・領土に被害が及ぶ危険性が存在する。
しかも北朝鮮は、この事実に対して一切の説明も、信頼醸成措置もとっていない。
もしも打ち上げが成功すれば、今回のことが前例となり、北朝鮮が日常的に日本上空を通過する打ち上げを実施するようになる可能性も考え得る。

とのことであり、彼の国が国際常識を大きく外れる行動を取ろうとしている「悪湿而居下」な様子がよく見て取れる。


第二の疑問は、今後の研究開発作業において必須と考えられる、飛行時データを可能な限り精密に収集するための追跡船の情報が一向に聞こえてこないという点。
ましてや過去2回(1998年、2006年)にわたる打ち上げにおいても成功とはほど遠い経験値しか積んでいない状況の下で、なぜ今回、データ収集体制を確保しようとしないのか、筆者は疑問を呈する。
そして、筆者の推論によれば、

トラブルが続いているにも関わらず、北朝鮮トラブルシューティングを行って同型機の再打ち上げに挑むのではなく、より大型のロケットである、今回の「銀河2号」の開発へと進んでいる。明らかに政治の側が「核弾頭を搭載可能で、長距離の射程を実現するロケット技術」を早急に要求しているためだろう。それに対して技術者達は開発のリソースをロケットの大型化に集中することで応えているのではないだろうか。

との考えを示し、政治的な思惑とは別に、技術屋の視点から、打ち上げによって彼の国のロケット技術の水準というものを客観的に類推できるチャンスになると結んでいる。
打ち上げは実際に行われないに越したことはないし、万が一、行われたとして周辺国に何らかの被害が生じないことを祈りつつも、こうした冷徹な視線を堅持し続けることには、強い共感を覚える次第である。



本日の音楽♪
「星空のジェットプレイン」(加藤いづみ