ふと眼が醒めるとそこが見知らぬ土地であったという体験

若い頃は油断をして帰宅電車を寝過ごしてしまうということは、通勤経験者であれば誰にでもあることではないかと類推をする。
さすがに深夜東京駅発の東海道線623M電車に乗って、寝過ごして、朝起きたら大垣であったよといった豪快な乗り過ごしの経験はないが、いろいろと寝過ごしの失敗はある。
(見識ったところでは名古屋まで行った人が居る。)


某私鉄沿線の終着駅前にはタクシーもホテルも何もなく、その小さな駅は無情にも酔客を追い出すとすぐに電気の灯を消して店仕舞いをしてしまった。
あたりは深閑として人も車も通らない。
公衆電話もない。(携帯電話という利器は当時頭の中にさえ存在すらしなかったのである。)
遠くで蛙の鳴き声だけが聞こえる。
酔いが途端に醒めていくのは有り難いことであるが、文字通り、途方に暮れた。
とぼとぼと少し歩いたところに野球グラウンドがあったので、ベンチの中で横になって夜を過ごした。
朝方、早起き野球チームに「何してんの?」と起こされた。
環状線の終着駅では、ホテル代を払うのが惜しくなって、近くの深夜ファミリーレストランで珈琲一杯で企画書作りに励んだ。
絵に描いたような若者では或る。


いまわたくしの住む町も深夜終電の終着駅となっており、時々、熟睡爆睡を貪っている乗客を見掛ける。
これから五月にかけてさらに多くなるのであろう。
最近は女性の爆酔客も多いように思う。
わたくしの住む町の駅前には何故かビジネスホテルというものがほとんどない。
今は漫喫やサウナなどが出来て、往生をしなくて済むようになったのではないかと思われるが、そういったものがない当時は、かなり難儀をしていたらしい。
同性の同僚とブティックホテルで仕方なく夜を明かしたという話を聞いた。
かつて言うところのラブホは、昔からしっかり何軒かこの町の要所の立地を押さえてあって、何故かそれなりに栄えてはいるようなのである。
どうもこの町の潜在的な需要量というものが未だにわたくしにはよくわからないでいる。


…おお!
これ、わたくしの住む町の七不思議の一つにカウントしてしまおうか。


本日の音楽♪
「銃爪」(ツイスト)