仏蘭西の小父さん

いくつかのメディアで紹介記事を見かけたが、この『世界の進路を決める50人』という些か魅惑的なタイトルを掲げたフィナンシャルタイムズ誌記事の邦訳版があった。
http://news.goo.ne.jp/article/ft/business/ft-20090318-01.html


得てしてわたくしたちの最大の関心というものは、この世界の50人の中に日本人はいったい誰がどのような理由でノミネートされているのかという点に向きがちではあるが(それは非難されるべき反応ではないが)、大方の予想に反しない日本人の取り上げられ方である。
予想というのは、我が国が世界の中でどういったような役回りをしていると世間(世界)に受け止められているかという観点での認識のされようについてである。
そして、それは自他共に認めるほどに、ほとんど大した役割というものを担っていない。
であるからして、ノミネートされた日本人に対するコメントについては、今回はどうでも宜しいこととする。


全体的に、当たり前のことではあるが、著名人がリストアップされている。
発言力(発信力といったほうがより適切か)の大きさをもってしても、然るべしなのであろう。
然るべき権能を有する組織の長であれば、それは尚更である(但し、組織の長はその組織の存在が前提にあるということは当然の事)。
そのような中にあって、組織とか背後団体の柵(:しがらみ)の少なそうな個人営業主であるところのエコノミストについて見てみると、6人がノミネートされている。
クルーグマン、ルービニ、それにボルカー(←いつの間にエコノミスト?)といった有名処が顔を出すのは分かるにせよ、さて、一体この中で誰が経済運営の理論的主導を担っていくのであろうか。
勿論この面々がこのノミネートを機会に特命チームを組むわけではないので、彼らの中に役割分担などという思考回路が存在するものではないが、一方で、米国の民主党政権下におけるクルーグマンの理論が結局のところ世界全体を席捲していくのだなんてことを誰か本気で思っているのだろうか(一部盲信的心酔者を除く)。
それと、わたくしはこの方面の専門家ではないので分からないが、この6人をそれぞれ「何とか派」といった色分けをして見ていくことには余り意味はないのだろうなとも思う。
ケインジアン的論文を書いて評価を得た人物が別の場所ではマネタリズムを熱心に説くなどという事例は枚挙に暇がない。
いずれにせよ、近年における実学としてのエコノミストの役割というものに少々懐疑的なわたくしとしては、彼らエコノミスト諸氏に対しては、そのパフォーマンスの結果として、何でも良いから目に見えるOUTCOMESというものをひとつ期待してみたい。
さすれば、彼らの前途にノーベル(経済学)賞というprizeがなにゆえ設定・用意されているのかということにも得心がいくかもしれぬ。


さて、そのほかに、投資家、企業家、メディア関係者等の名が目を惹く中にあって、わたくしは、これまでに識らない人物の名前に心が留まる。
その名は、Olivier BESANCENOT.

オリヴィエ・ブサンスノ(34)
フランス反資本主義新党党首
フランス最大の極左集団「反資本主義新党」を率いるトロツキスト郵便局員。不況がひきがねとなる社会不安を利用し、社会・政治秩序の転覆を夢見る。世論調査では、フランスにおける最も実力ある野党政治家と目される。過去2度、大統領選に出馬し、それぞれ100万票以上を獲得している。

勿論それ以外にノミネートされているインドやシンガポールの人物諸氏もよく存じ上げていない。
しかし、一体どうしてフランスなのか(単なる編集子の御仏蘭西贔屓かもしれぬ)。
しかも、一介の反体制主義者。
フランスの反体制的人物といえば、破廉恥で横暴な破壊行為をよく引起こす農家のボヴェおじさんとか黒子(:ほくろ)のように欧州に強情に根付く極右政党の指導者(ルピンおじさん)であるとかに纏わる物騒な話は、現地特派員からの報道記事でも時々耳にしたりするが、極左というのはあまりよく聞かない。
それも何だか旧来の社会党共産党とも異なる、新しい色の極左グループを率いているらしい。
以下は、社会・政治秩序の転覆を夢見るユートピアンの主張(それにつけても「転覆」なのである)。

労働者階級は資本家階級が自身のために奪う全利益の源泉である。この階級がストライキ行動を起こし労働を停止する時、彼らは生産を停止させ利潤の流れを阻止する力を持つことになる。マルクス主義、つまり科学的社会主義とプロレタリア革命の理論は、西ヨーロッパや世界の他の地域における防衛的な階級闘争を通じて、再び労働者階級により自身のものとして理解され受け入れられるようになるにちがいない。われわれは、一九一七年十月のロシアの場合と同様に、労働者を新たに勝利する革命へと導く国際的な革命的労働者党を建設するために闘っている。

これだけを読んでも、一体どこが新しいのかこの文章だけからはよく分からない。
というか、相当に黴臭い。
ワインではあるまいし、こういった冷めた料理を堂々と客の前に出すことができるというスタイルこそが斬新なのだというわけでもなかろう。
ましてや、万民の共感を誘うような新味のあるワーディングもなく、彼の魅力や熱情が如何辺にあるのかがよく分からない。
さらには、彼の世界経済に及ぼす影響たるや推測のしようがないのではあるが(単なる編集子の御仏蘭西贔屓かもしれぬ)、今後フランスの時事ネタを見かけた際には、少し注意をして彼の名前をウォッチしていくこととしよう。
ブサンスノ。
郵便局のおじさんである。


本日の音楽♪
「すれちがい」(江原由希子