旅の重さ2

一人旅は未成年の頃から好きで、職務質問をよく受けたりもしたが、堂々と身分と事情を話せば放免して貰えた。
高校生の時分に、旅先の山●駅前のバスの待合所に佇んでいた際、隣にすいとやって来られた小父様が「ちょっと手を貸してくれないか」と言うので、怪訝に思いながらも手を差し出すと、愛おしそうにわたくしの手を揉み始めて、暫くした後に、「ちょっと…行かないか」と連れ出そうとされたことがある。
大事には至らなかったが、当世では、文句なく小父様は逮捕される。立派な未遂犯。
それでなくとも未成年の誘惑は今は厳罰主義なのであるからにして。


高●で一緒になった大学生は、博物館の前で、わたくしに「入場券、中学生2枚で買っちゃってくれない?」とお願いをしていた。
これは可愛らしい部類の小犯罪。


大勢の着飾った初詣客で賑わう、と或る観光地で、一人小さなスポーツバッグを抱えて、佇んでいるわたくし。
物見遊山の風情はまるでなく、歴史や民俗学を勉強したいわけでもなし、自らの足跡をそこに遺そうというわけでもなし、いったいどうしてぽつねんと一人佇む旅ばかりを繰り返していたのか。
カメラも持たず、時刻表と手帳と筆記用具だけを必需品にして。


大きくなったら、したいこと。というのが当時からあった。
今のわたくしはもうこれ以上大きくなりようがないが、いつかは遍路巡りをしたいと思っている。
バスツアーで巡る優雅なそれではなく、徒歩での巡礼である。


今は大変便利なお遍路豪華フル装備グッズセットが札所で用意されていたりするが、やはり持っていくものは最低限のものだけでよい。
非常食もアーモンドキャラメル一箱あれば、一粒で二度美味しいわけですから、それだけで充分で御座います。
野宿も厭いません。


野宿の旅で思い出すのは、世界遺産候補地の平●の最寄りの駅前のベンチでシュラフに包まり野宿をしていたところ、明け方にあまりの寒さで眠れずにがたがたと震えていたら、「おい」と声を掛けられて、見るからに住所不定の放浪者のような小父様から、どこで拾ったのか分からないような見窄らしい林檎を一個頂戴したことがあった。


やはりわたくしの原点は、「旅の重さ」の遍路にある。
というわけで、「旅の重さ」の書評はまたも持ち越し。


本日の音楽♪
「汽車」(EPO