青春の蹉跌のその先にあるもの、いま風に味気なく言えばアラサー

宮本輝の作品に「私たちが好きだったこと」という、青春の終焉の情景をよく表した作品がある。
映画では愛子役の夏川結衣が素敵だった。
青春の終焉といえば、テレビドラマ「男達の旅」のエンディング風景(今で言うところの「にんげんだもの」的なテロップ)のようなイメージもなきにしもあらずではあるのだが、どちらかと言えば、わたくしの持っているイメージは、かのATG映画「ヒポクラテスたち」に近い。


七面倒くさい捻った映画ばかり多かったATG作品ではあったが、この「ヒポクラテスたち」は好きだった。
伊藤蘭の何かに頑なで剣のある表情が素敵だった。
しかしながら、わたくしが青春の終焉を主題とした代表作として掲げる作品(小説)は、「しおれし花飾りのごとく」(なだいなだ)である。


若さという乱暴な恋愛感情、或いは、失恋という乱暴な総括の仕方でこの終焉の物語を捉えることは、単純に過ぎると考える。
この終焉を象徴的に喩えるのであれば、観念性の敗北といってもよいとわたくしは思う。
作者の自伝的小説なのであろうが、自分自身の心象に照らし合わせてみても、よくトレースが可能な作品であると言える。
おそらくこの作品はドラマ化されていないと思う。
であるからかどうか、世間によく膾炙されている作品とは言い難い。


ちなみに、本作品は昭和41年上期の芥川賞候補作にノミネートされているが、本作品に言及した審査員(石川達三大岡昇平、滝井孝作、丹羽文夫、石川淳中村光男、三島由紀夫川端康成永井龍男舟橋聖一井上靖。何と錚々たる顔ぶれ!)の選評は、見当たらなかった。
参考までに、こんなことを言っておられるいち大家の評。

石川淳
 今回は該当作品なしとするのが妥当のようである。提出された八篇をざっと見わたしたところ、読むにも堪えないようなものが二三篇、その他についてもとくに推そうとおもうほどのものはなかった。こういう文学状況がつづくのは、こまったことである。

いと、手厳し。


本日の音楽♪
「くるみ」(Mr.Children