分子量164.39

ラベンダーの香りに関して、エーテル(ジエチルエーテル)で気を失うかという話を以前書いた(2月15日付け「時間旅行のツアーはいかがなもの」を参照)のであるが、薬品による失神経験というものがわたくしにはある。
手術前の麻酔ではない。


飯場で働く若い衆の一員であったと或る日、若い衆の上司の一人に、裏庭に摘まれた土の小山の消毒作業を依頼され、その薬品と器具を手渡された。
くん蒸とかいうやつである。
その薬品は、気化性が高く、強い催涙性と粘膜刺激性を伴う医薬用外劇物であり、有名な毒ガス原料でもあったが、それはそれとして、よく目にしたり耳にしたりするものであって、若い衆の間でも謂わばポピュラーな代物であった。


それよりも問題なのは、渡された器具のほうなのであるが、これは土中への注入器具に当たるものであるのだが、見るからにどうにもこうにも古い。
削岩機か竹馬ホッパーか醤油チュルチュルの親方といった形状といえば宜しいのであろうか。
形状はともかくとして、薬品注入口の一部にひび割れが見えたりしていて、明らかにガタ(寿命あるいは賞味期限)というものが来ている。
脳天気な若い衆であったわたくしでさえも、「これは大丈夫か。」と正直心配になってくる。


作業は一人で行った。
一人黙々とタオルを顔に巻きながら注入作業を行っていたところ、突然、脳天に衝撃が起き、気がすううっと遠くなっていった。
どれくらい気を失っていたのかは、よく分からない。
気がついたら、小山の上で引っ繰り返っていた。
曇り空をしばらくの間ぼんやり見ていた。


その後、上司に注入器はこの際、勿体ながらずに処分するように進言をし、併せて防毒マスクも購入してもらった。
大らかと言えば聞こえがよいが、つくづくいい加減な職場環境でもあった。
かくいう私も、その後、笑い話にしながら、その壊れた器具をよくぞ今の今まで使い続けてきたかを周囲に語っていたのだが。


あと、失神と言えば、高校時代の体育の先生が柔道の国体強化選手か何かで、授業中、生徒をよく締め落としていた。
寝技の練習中に気を抜いていたりすると、すっと落とされていたりする。
「油断するとこうなるからね。」平然とした顔をして先生は忠告していた。
運悪く落とされた連中は、その日一日クラスメイトに揶揄われていた。それが結構満遍なく皆にその役回りがあてがわれていった。
イジメとは明らかに違うと思うのだけれども、生徒が真似をしようとしても、あれほど巧く「カクン」とは落ちてくれない。
帯ギュ(帯をギュッとね)」の石塚君みたいな一瞬の落ち方でしたね、あれは。


本日の音楽♪
「バス・ストップ」(チャカ)