上から目線

上から目線
        自分の事を棚に上げて、他人を見下す雰囲気や言説のこと。

居酒屋で3人の男達が卓を囲んでいる。
吊し上げられそうな話の種であれば何でもよい、今宵も格好のエサが酒の肴となる。


A(短髪の中年):「お役人つうのは何であんなにいけ好かないんだろうね。」
B(紳士然とした老人):「何か不愉快なことでもありましたかな。」
A:「いや、別にね、俺が何(:なん)かにあったつうわけではないんだけどね。ほらさ、新聞やテレビをみても相変わらずお役人どもが悪さをしてんだろう。腹黒いねえ。腹が立つねえ。なのに、連中はいつも偉そうにしててさ。『上から目線』ってんだろう、あれ。やだねえ。」
C(ごく普通の若者):「政治家なんかもそうですよね。」
A:「奴らは選挙が始まるとコロっと態度が変わるけどな。お役人は始終威張り腐って,俺っちらを見下してやがんだろ。」
B:「私も直に彼らと接触をして確認をしたわけではないが、仕事柄ということもあるかもしれぬな。立場上、民を等しく監視するといった見方がな。監視という言い方は幾分扇情的ではあるが、我々民の立場からすると彼らの視線に何某かのプレッシャーやコンプレックスが生じることは否めないのではないかな。」
C:「そうはいっても、公務というのは一種のサービス業であるわけでしょう。サービス業であれば、顧客である国民や市民の満足度を向上させることをまず優先するべきだと思いますけど。そのためには、矢張り奉仕の精神を忘れずに、市民の目線の高さを持つっていうのが大切なんだと思いますよ。」
A:「実は俺の商売なんかもよ、サービス業に分類されるんだぜ。案外、物知りだろう俺。客に喜んでもらうにはどうしようかって、俺は日夜悩み抜いている。夜も眠れねえとはこのことだが、何のこれしき、それもお客様目線てやつのためだと思えばよ。まったく俺達ゃサービス業の鑑つうわけだぜ。」
C:「だけど、その割に仕事中は、お客さんをずっと上から見下ろしていますよね、結構冷ややかに。」
A:「おめえも同類だろうが。こん畜生め。本当はよ、客なんかみんなカボチャだと思って事にあたらねえと、やってられねえんだがな、この商売はよう。」
C:「先生っていうのも教壇に立つ立場上、やっぱり上から目線ですよね。」
A:「先生とか師匠とか名の付く連中はみんなそんなもんだ。胸張って虚勢示しておかにゃ、生徒や弟子になめられて仕方あるめえ。なあ先生。」
B:「威張るかどうかは別問題だとは思うがね、この際。一般論としては、学者というのは俯瞰的な物の見方が出来ないと務まらないというのも事実ではある。このことは、役人であれ、市民の目線の高さと言うこととは別に必要な視点ではあると思うがね。」
A:「俯瞰と来たよ。」
B:「学問を冷静かつ体系的に眺めるという意味だね。勿論、ブレイクスルーを必要とする場面では主観やセレンディピティが大切になったりするわけではあるが、少なくとも、社会や公衆に対して自己表現の成果の説明を求められる際には、客観的かつ俯瞰的な説明というものが前提になるというのが世の中の常識かつ約束事ではある。即ち、事実を挙証し、仮定を立証するプロセスだ。そういう態度をして、上から目線と言われても、私は否定しないがね。」
A:「ブレイクスルーにセレンデ何たらですかい。偉そうに勿体振ってご託並べてやがるが、大体は箸にも棒にもかからん竹輪の穴みたなチンケな内容だったりするんじゃねえのかい。」
B:「強く否定できないところがちと辛いところではあるな。」
C:「僕も今やっているバイト、ちょっと上から目線過ぎないかって悩んでるんですよ。」
A:「お前も俺と同じ風呂屋の番台みたいな商売だからな。」
C:「そういう見かけ上のことじゃなくてですね。僕の仕事もサービス業種には違いないとは思うんですけど、何だか『あれはいけない、こうしてはいけない』って指図ばかりしてて、いつの間にかそういう上から目線の思考になっちゃうんですよね。先生でも師匠でもないのに。」
A:「ルールがあるんだからよ、それを守らせにゃならんのだから、先生みたいなもんなんだろ。ところで、役人は先生なんて呼ばれんのかい。」
B:「どうなんだろう。ルールや秩序を重んじれば、先生だけがその目線を備えているというわけではないようだね。まあ、公正公平に俯瞰するという物の見方、これまでを否定してしまっては元も子もないとは思うのだがね。」
C:「それで、僕、仕事変えようかと思っているんですよ。」
A:「ほう、次は何をやるんだい。上から目線でもって、ヘリコプターの操縦士か何かかい。」
C:「プラネタリウム館員なんですけど。」
A:「下から目線で結構だが、真っ暗すぎて目線がどうかなんて、分かんねえわな、こりゃ。」


A:落語家
B:大学名誉教授
C:公営温水プールの監視員


本日の音楽♪
「SWALLOW」(鈴木祥子