時間旅行のツアーはいかがなもの

芳山和子が理科実験室で、あるいは、深町一夫の寄宿先である屋敷内のグリーンハウスを訪れて、ふと嗅いでしまったラベンダーの花の香りによって、彼女は時間を駆け抜ける。


筒井康隆原作「時をかける少女」の有名な1シーンであるが(むろんわたくしの記憶の母体となるその原風景は、原田知世さんの同名映画のほうではなく、島田淳子さん主演のNHK少年ドラマシリーズのほうである。作品としての出来は、知世さんの映画のほうが断然いいですけれどもね。知世さんの陰のある可憐で中性的な学生服姿は絶品でした。)、当時、わたくしはそのシーンを観るTVの前で、「ラベンダーって一体どんな香りがするんだろうか。」という思いを馳せていた。


今ではどこかしこの製品にも添えられている香りであり、北海道フラヌイ辺りの土産物屋さんに行けば、嫌と言うほど嗅覚と視覚に訴えてくるラベンダーの花々ではあるが、当時は、それほどポピュラーな花ではなかった。
少なくとも、わたくしの住む田舎の店先に、そんな小洒落た香りの商品は全く見当たらなかった。


ラベンダーの香りについて、わたくしの想像力の世界の中では、「一体全体エーテルの香りのようなものだというけれども、あのエーテルだったら、文字通り気を失ってしまうでしょうに。」といった神秘的な思いを巡らしていたわけであり、いくらか長じてその後実際にラベンダーの香りを初めて鼻にした時に、こんなものかと、やはり少々がっかりした記憶がある。


香水も味覚と同様に、ファーストノート、ミドルノート、ラストノートといった展開があるそうであり、成る程奥が深い世界であるが、今はもう、ラベンダーの香りはあまりにも安っぽい気がして(トイレの芳香剤になんか使わなければいいのに)、フレグランスとして珍重する人は少ないのではないだろうかと予想する(芳香主成分はハーブ系において一般的な酢酸リナリルとリナロール)。


遙か昔、卒業した上級生の男の子がつけていたTACTICSの香りに大人への階段を感じたあの頃が大変に懐かしい。
あの頃は、そういうフレグランスしか身近になかった。


転じて、今は香りも豊かになった(GDPに比例するのかもしれない)。
わたくしの好きなフレグランスは、HERMESの一連の製品。
十代の若い女性にはどうかと思うが、独自性があって、中性的で、日本人の嗜好に合った香りであるとわたくしは、気に入っている。(別格は、GIVENCHYのEAU TORRIDE。廃版である。)


本日の音楽♪
タイムトラベルを含む三部作も大好きな作品ではあるが、個人的にこちら。
「Without You」(原田真二