アナグラム

若いある時期、ほとんど金銭の持ち合わせといったもののない貧乏人の典型であったということもあり、近所の公設図書館に入り浸り、年の日数を超える程の数の書籍を借り出していた頃があった。

その時分に初めて触れた作家で、確か単行本の「乱れからくり」を読み、心底驚嘆をし、驚喜乱舞をした想い出がある。
当時、こうした外連味の大幅に利いた本格ミステリというものは皆無に等しく、ミステリが不毛の時代を迎えていたという論評は、正鵠を得ている。
わたくしを含めた読者は、当時のわたくしの生活と同様に、こうした本格ミステリの味というものにとても飢えていた。
そこで、幻影城というまるでエルドラドか梁山泊のような存在を知り、憧れ、希望をもった。
その後、「トリック交響曲」というエッセイを読み、奇術エッセイの名手である松田道弘を知り、さらにマーティン・ガードナー等等へとその興味は広がっていった。
わたくしの名前もアナグラムにして親しんだりした。
もう一度、「11枚のとらんぷ」や「喜劇悲奇劇」といった趣向を凝らしたアクロバティックな香気溢れる作品の贈り物とこれを楽しむ至福の機会をわたくしたちに提供いただきたかった。


合掌。

本日の音楽♪
「夢(「キッチン」より)」(野力奏一)