オトナノ恋

たいへん若い時分は、恋愛小説の類にそれほど夢中にはならなかったような気もする。
ましてや大人の恋愛を対象にした小説に対しては、ある種の拒絶反応が強くはたらき、全くといってよいほど食指を示さなかった。
いつ頃からか、抵抗なくこうした小説が読めるようになり(もちろんハーレクインといったものではない)、そして、大変口幅ったい言い方になるが、登場人物達と「共感」を持てるようになった。
同分野でのわたくしのfavoriteな代表作を掲げるとすれば、「錦繍」(宮本輝)で、どうだろう。

書簡方式という制約を課しながらも、品格のある文体、起伏あるストーリー展開、品位ある登場人物、深い思慮、美しい自然風景描写(なにより表題名が錦繍である)、、、個々の評点でみても、総合点としても、申し分のない作品である。
日本を代表する純文学として、もっともっと評価、表彰されてもよい作品だと思う。古本の棚に百五円で並んでいたりするのを見かけると、たいへん哀しい気持ちになってしまう。
もしもわたくしが、10代の頃にこの作品に接していたとすれば(食わず嫌いを克服していたとして)、どのような感想をもったのであろうか。

わたくしが10代の頃に好きだった数少ない純恋愛小説の代表作品は、「オリンポスの果実」(田中英光)だった。
いまの若い人達がこれを読んだら、いったいどういった感想をもつのだろうか。

「女々しい」「軟弱」「観念論すぎ」…ある行為も人によっては、ネガティブに捉えられたり、はたまた純粋無垢に捉えられたりする。
純粋に人に恋する、好きになる、夢中になる、無私になる、祈る、こういう行為が愛情表現の典型であると、当時の自分の中で考えていた節がある。
それはそれで、いまでも正しいと思うし、いまではそうでない部分も心の中で共存をしている。

本日の一曲♪
「Feeling blue」(水越恵子)