悪夢再び

蒸し風呂のような茹だる真夏の夜。家路への帰途につく坂道の途中で、「この坂…下るよりも上った回数の方が多いんじゃないかしら。」などとうだうだ下らぬ事を考えながら、わたくしは長い坂道を上っていたのである。
ふと気付くと、わたくしの前を若そうな二人連れのカップルが並んで歩いている。男の人はとても大きな体格(まるでプロレスラーみたい、でもスポーツ系という感じではないみたいね)、女の人はこの時節、フリフリブリンブリのピンクハウス系の服を身に纏っている。見るからに暑苦しくて、見ているだけでも汗が止まらない。
即座に彼らを追い越して、涼しげな気持ちに浸りたいと思っても、大きな二人がOur Wolrd二人占めとばかりに指を互いにしっかと絡ませ手を繋いで並んで歩いているので、バリケードのように狭い道を塞いでしまって追い越すことができない。
しかたなく、つかず離れず、後ろを歩くこととなる。
男の方が「BMIって知ってるかい?」と女の方に尋ねている。
女の方が「肥ってるとか痩せてるとかを測る奴でしょう。」と答える。
男の方が「よく知っているねえ。」と歯の浮いたようなべんちゃらを言って女を喜ばす。ふん、だ。ビックマックの価格指数もBMIって言うのを知っているかしらねえ。
そんな詰まらぬいちゃもんオーラが背後から飛ばされていることも露知らず、男の方が「この間、俺、そのBMIはかってみたら、肥満じゃなかったんだよねえ。」えへへ、とだらしなさそうに笑う。それでなくとも、暑苦しいのに。しょうもな、とわたくしは内心辟易とする。
女の方が「そうよね。それだけ背が高いんだから、太り過ぎってことはないわよね。」なんて輪をかけてお互いをホメ始めたので、わたくしは、いらいらを解消するために、仕方なく携帯電話を取り出して、気晴らしでワンセグでも見ようと思う。
坂を上がりながら、ワンセグボタンを押したその途端、画面の光量がかくんと落ち、液晶画面は真っ白仮死状態に近くなる。ま、また。携帯電話が故障した!
1,2ヶ月ほど前に、同じ故障をして、交換をしたばかりだというのに。一体どうしたというのだ。
わたくしが、(んげっ)と声にならぬ声を出して、目を点にしていると、前方のカップルが振り向いて、不審そうにわたくしをじろりと見やる。
その上から目線のシチュエイションに耐えきれず、わたくしは、何だかとても情けない気持ちになってしまって、いっそのことヤモリにでもなって窓に張り付いていたい気持ちになりました、という真夏の夜の悪夢のような話である。


さて、この坂道での携帯電話の突然の故障は今回で3度目である。これだけ同じ現象が同じ場所で続くと、わたくしとしても、故障には固有の原因が何かあるのではないかと考えてみたくなるわけである。

1.坂道のどこかにいびつで邪悪な電波、念あるいは「気」が溜まっている。又は、そういう能力者が近所のどこかに隠れ住んでいる。
2.湿気と高温にとことん弱いヘタレな機械(特に、液晶デバイス)の典型。シリカゲル(吸水材)と携帯ミニミニ扇風機を持っていなかったことが原因。
3.離婚の原因としても第一に掲げられる、わたくしとの本質的な相性。すなわち、性格のふいっち。
4.前を行くカップルの痴話ばなしが原因(ほとんど言いがかり)。
一体どれが真の原因なのか。


わたくしとしては、この選択肢を抱えて、今週末にでも携帯会社の窓口に出向いて担当のお姉さんに親身に相談に乗って貰おうと思っているのである。


本日の音楽♪
「シンシア」(原田知世